そんな冬の日


先日、「そんな夏の日」で書いた友人のお墓に行ってきた。まさか、「そんな夏の日」のあと、すぐ「そんな冬の日」を書く事になろうとは思って見なかったが、おもしろい出来事の連続。とても楽しい旅だった。


■■行く前までの話■■

◆12月16日 キップを買う
新幹線のキップを買う。これは前もって時刻表を調べて買いに行ったので順調。行き、帰りとも第一希望の便がとれた。のぞみは運賃が高いが早いし座席の前が広いので楽だ。新岩国ー広島間をこだま、広島ー東京間をのぞみに乗る。岩国から東京までだいたい4時間半だ。友人(とりどん)が新幹線のホームまで迎えにきてくれるとのこと。これなら安心。迷子にならずにすみそうだ。前に友人と神戸に旅行に行ったとき、神戸駅でエライことになったので大きな駅は心配なのだ。神戸駅から大阪行きの電車に乗りたいのに、行くところ行くところ出口専用の改札ばかりで中に入れない。つい電車に乗るだけで30分もかかってしまった、という苦い経験をもつだけに、とりどんのお出迎えはありがたい。

◆12月18日 荷物の宅配
シスターの衣装、猫の衣装等をお世話になる友人宅(かずくん&こあさ)に宅配便で送る。現地でコスプレカラオケをして楽しむつもりである。重いおみやげも一緒に入れて送る。

◆12月20日 残業のバカァ〜〜
この日、旅の支度をするためにバレエのレッスン(夜7時〜9時)を休むことにしていた。しかし夕方4時ごろになって急に残業が決定。9時までカンヅメになった。おかげで手土産にと予約していた「岩まん」を閉店までに取りに行けなかった。やっと店に電話できたのは9時前。私は今からでも店を開けて欲しかったのだが、キャンセルしてくださいとのこと。「ああ、明日、手土産なし〜〜!」途方にくれた。…当分岩まん買いにいけないな。
そもそもこの残業、私のチラシ原稿が思ったより早く上がったので突然今日やることになった。チラシを配るのは12月27日ごろと聞いていたので、それまでにできればいいや、と思って作っていたのだが、資料が割とすんなり集まって20日の午前中にできてしまった。これが不幸だった。印刷は2万枚の裏表。印刷機2台に3人、紙折り機に1人ついて、フル稼働。5時から9時まで立ちっぱなし。帰る頃にはフラフラ。ああ、何のためにバレエを休んだのやら…。

帰ってからあわてて荷造りをする。何を着ていくかも決めてなかったので、案外手間取る。おまけに明日の朝早いので、早く寝なくては。


■■道中の話■■

◆12月21日 地獄に仏
ひょっとしてどこかお土産屋が開いてないかと思って、朝7時ごろ家を出た。新幹線は8時ごろなのだが、選ぶ時間もあるので、30分早めに家を出た。朝早すぎて案の定どこも開いていない。しかし地獄に仏とはこのこと、新幹線の売店にお勧めできるお菓子があるではないか。ギリギリの所で「手土産なし」という最悪の事態をまぬがれることができた。

◆12月21日 のぞみの中で
広島でのぞみに乗り換え。この日は大雨で、次の日も関東は雨だと聞いていたので、傘は大きなのを持ってきた。いくらのぞみの座席が広いといえどもちょっとじゃまになった。私は4時間も乗りっぱなしなので、絶対退屈するだろうと思い、カクテルの本を読み始めた。外は雨、何の景色見ても灰色…。

私はどうも富士山に嫌われているようで、修学旅行で行った時は、登るどころか5合目で記念撮影をしている間にガスに覆われ、私たちのクラスは撮り終わったものの他のクラスは撮影中止。また山梨にコンサートで行った時は梅雨時でサッパリ、と近くまで行ってもまともに姿を見られたことがない。今日も雨、だめだろうな。

4時間も乗っていると、トイレにも行きたくなる。立とうと前の座席をつかんだら、前の席のおっちゃんの頭も一緒につかんでしまい、バツの悪い思いをした。おっちゃんはちょっと御髪が薄かったので気の毒だった。ごめんよ。

◆12月21日 葛藤の東京駅
東京駅に着く。とりどんが2号車のホームまで迎えに来てくれるという話だった。さすが東京駅、人が多い。(実は私は迎えに来る友人の顔をよく知らなかった。小さい写真を見せてもらっただけ。とりどんも私の顔はホームページに載せている舞台の顔しか知らないので、素顔は知らない。)これだけ人が多くてわかるかなあ、と思いつつホームに下りた。辺りをウロウロしてみるがそれらしい人はいない。しばらく待てば、新幹線に乗る人は乗り、下りた人は出て行って空いてくるだろう、と思い待ってみることにした。そして2号車の入り口付近に一人の男の人が残った。
「え〜!、あの人ぉ?。何か違う気がするけど、でもあの人しかいないし…。」
一人ホームに残ったのはハゲのおっちゃん。
「うわー、どうしよう〜〜〜。勇気だして○○さんですかって声かけてみようかなあ。」
困った困ったと思いつつ、例のおっちゃんがとりどんだと信じたくなくて、私の目は私を探している人を必死で見つけようとしている。
「まさか、この人違うよね…。」
どーしても例のおっちゃんがとりどんだとは信じたくない私。当分ウロウロしていたが冷静になり
「いや、電話をかけてみて、そのへんで電話をとったのがとりどんだから。」
と思い電話をしてみると、電話が一旦つながってすぐ切れた。そして例のおっちゃんが携帯をとったように見えた。
「うそ〜〜〜〜。あの写真、もっと毛があったような気がしたけど…。マジ…??。」
(ここまで書くと「もし本物のとりどんがハゲていたら嫌いなのか?」ということになり問題ありなのだが、事実私は少し引いていた。後から考えると人間ルックスがすべてではないが見てくれも必要なんだな、と思った。でも、とりどん、今はもうハゲてても大丈夫だからね。(笑)引かないから。)

あきらめ切れずにもう一回電話してみる。つながった!。
「とりどん?今どこ?。」
「#&*@§☆★○●◎◇◆□■△▲▽▼※〒→←↑↓〓♯♭♪†‡¶◯」
ホームはすごい音なので、何言ってるんだかサッパリ聞こえない。何回か聞き返して、とりどんはまだ入場券売り場に並んでいることがわかった。私が動くと迷子になってはいけないので、そのままホームにいろとのこと。しばらく待つと、なんか見たような顔が…。
「あー、よかった。とりどんがあのおっちゃんでなくて。」
これがとりどん初対面の感想。

とりどんと知り合ってから5年半ぐらいだが、会うのはこれが初めてだ。電話では何回か話したことはあったが、これでやっと顔と声が一致した。ふわ〜っとした感じで話すが、なるほど、そういう感じで話しそうな顔だ。これから軽く食事をして高速バスに乗るのだが、とても初対面とは思えないほどしゃべりまくってあっと言う間に潮来に着いた。

潮来についたら、車でかずくんと子供たちが迎えに来てくれた。自称「新しい中古車」で買い換えたばっかりだったので、とりどんも最初どの車かわからなかったみたい。でも大雨でバス停に屋根も何もなかったので迎えにきてもらって、とても助かった。


■■潮来での話■■

◆12月21日 かずくん&こあさの家にて
着くなり、子供たちが大騒ぎ。歓迎してくれてうれしい。カラオケに行く前に芝居の衣装を使っておマヌケな写真を撮る。かずくんやこあさとも、初対面とは思えないぐらい話がはずむ。来てよかった。これで辛気くさかったら2日もどうしようと思っていた。かずくんととりどんが一緒に布団で寝て、2人とも寝相がいいのか一つの布団でもはみ出さなかった話、とりどんもイビキをかくのだが、カモちゃんがとりどんの家に泊まった時、カモちゃんの地響きのようなイビキのすごさに驚いて目を覚ました話。かずくんととりどんは朝3回ぐらいトイレに籠もる話。とりどんが家以外で大をするのはちょっとはずかしい、と思っている話。かずくんの家の五右衛門風呂に入ったがぬるかった話。と、いろんな話を聞いた。そしてかずくんとこあさの結婚式のビデオを見せてもらった。カモちゃんが映っている。隣の席の人に語るカモちゃんは、隣の兄ちゃんの倍ぐらいデカイ。カモちゃんの声も入っていた。低い声だった。しゃべり方はカモちゃんの書く文章のまんまだった。カモちゃんは「ゲ−ムのおじちゃん」として子供たちに人気だっただが、踊りのゲーム(踊りながらアイドルを育てていくようなゲーム)の振りを寸分たがわず覚えていて、とてもおもしろかったとか。あれはカモちゃんでないとできない、とこあさが言っていた。そんなカモちゃん、見たかったな。

◆12月21日 カラオケ屋にて
大人4人、子供2人でコスプレの衣装を持ってカラオケに行く。この人数ではすぐ順番が回って来るので、自分の歌を歌ったら、しゃべる間もなく次の歌を探さなくてはならない。子供たちは歌って踊って大はしゃぎ。終わりごろには服を置いている台の服をのけて、ステージにして踊りまくり、もっと踊れる歌を歌えと要求。けっこう遅い時間なのに超元気である。割と人見知りな私だが、この日はミョーにハイだった。とりどんが後から「普段着な姿を見られてしまった」と言っていたが、私もそうである。2時間だったか3時間だったか歌いまくり、帰宅。コスプレする間もなく終了。

◆12月21日 大人の時間
カラオケから帰って、酒盛り。私にしては結構飲んだかもしれない。何をしゃべったかあまり覚えていない(というか、カラオケ前の話しとごっちゃになっている)が、こあさとヘンな写真を撮って、とりどんの携帯からたらばさんに送った。実は大人の時間の半分位を私はお風呂に入っていたので、ちょっともったいない事をした。お風呂はさっさと上がってもっと話せばよかった。こあさの家のお風呂は浅くて寝て入るタイプ。油断すると溺れそうだった。私がお風呂から上がってからも少し飲んで、話して、解散。

寝室に入ったところの、入り口の柱にもたれてみた。「この5月の連休には、カモちゃんはこうしてここにもたれていたんだなあ。」そう思うとちょっと涙が出てきた。この部屋は、カモちゃんととりどんたちが5月の連休に麻雀をした部屋。カモちゃんが亡くなってから、とりどんにカモちゃんの写真を送ってもらったのだが、その現場だ。赤い障子も当時のまま。同じ場所に私がいるのが不思議だった。カモちゃんには生きている間に会いたかった、そして、とりどんやこあさに生きている間に会えてよかったと思った。カモちゃんが亡くならなければ、こんなに急いで潮来行きを決めただろうか。多分まだ先でいいや、と思って延ばし延ばしになっていたと思う。カモちゃんが「生きている間に会っておけよ。」と私の背中を押してくれたような気がした。カモちゃん、明日、会いに行くよ。

◆12月22日 とりどんの寝込みを襲う
朝、7時ごろ目が覚めた。2階からイビキが聞こえる。誰だろう?。トイレに行ったが、誰も起きてない風なのでまた寝る。9時ごろ、いい加減には起きねば、と思って起きた。こあさが朝御飯を出してくれた。朝から鮭なんて…贅沢。具だくさんのお味噌汁がおいしかった。いつも私のは弁当を作った残りの冷凍食品がおかずなので、ここでの食事はなんか旅館の朝御飯みたい。ちょっと感激。

とりどんがまだ起きてこないので起こしに行った。起こしたと言っても布団のまわりで子供と騒いだだけなのだが、とりどんは寝起きが悪いみたいだ。うーんうーん、言いながら枕を持ってぐずぐず言っている。(私は寝起きがいいので、起こされたらパっと起きられる。目が開いたらすぐ100%の力が出せるタイプ。なので、寝起きの悪い人の気持ちはよくわからない。)あまりにしつこく無理やり起こしたので、機嫌が悪かったのか、とりどんは何も言わないで当分窓の外の眺めていた。

◆12月22日 カモちゃんのお墓まいり
昨日の大雨がウソのように上がった。カモちゃんのお墓は、とりどんがカモちゃんのお父さんに聞いてきてくれていた。なんか分かりにくいところらしい。かずくんの車に乗って出発。佐原市内をいろいろ回って途中のコンビニで、とりどんがオレンジジュースを買った。カモちゃんがよく飲んでいたらしい。とりどんのナビで、目印の商店を発見、車でどんどん奥に入っていく。別れ道もあったが、キーワードの坂道をたよりに登る。その途中墓地が見えた。「あれかな?」。しかし「うわー」と思った。カモちゃんのお父さんの話では、20軒位の墓地だと聞いていたのに、お墓の数は倍ぐらいある。1つ1つ探すのは大変だ。そして突き当たりの巨大な家の前に車を止めた。さあ探すぞ、と意気込んで墓地に入ると、一番に気になるお墓が一つ…。

近づいてみるとカモちゃんのお墓だった。カモちゃんが私たちをみつけて「俺、ここだよ。」って言ってくれたに違いない。このへんのお墓はみんなそうなのか、通路に背を向けて建っている。うちのまわりでは通路側にお墓の表(南無阿弥陀仏だとか、○○家の墓とか)が書いてあるのが普通なので珍しいと思った。建立者のカモちゃんの名前が通路を向いていた。墓碑に刻まれたカモちゃんの名前はまだ赤い所が少し残っていた。私は持ってきたもみじまんじゅうを、こあさは別のおまんじゅうを、とりどんはオレンジジュースをささげた。カモちゃんの墓所の隣は空き地になっていて、そこで線香に火をつけたが、風が強くてなかなか着かない。かなりがんばって火をつけ、みんなに分けた。そのとき線香が落ちた。1本はかずくんが拾ったのだが、とりどんがもう1本落ちたはずだという。よーく探すともう1本落ちていた。よかった。隣は草が生えていたので、ヘタすれば火事になっていたかも。みんなで線香をあげ、おがんで帰った。カモちゃん、また来るよ。

◆12月22日 潮来見学
佐原市内は江戸時代の町並みを保存しているそうで、古い家がたくさんあるそうだ。市内をぐるぐる走って、潮来観光へ。潮来市内を流れる川にはアヤメがたくさん植えてあって、シーズンにはきれいで観光客も多いらしい。しかし今は冬。枯れはてた茎しか見えない。植物園関係には目のない私は水生植物園は密かに期待していた。植物園は開園しているようだった。しかし塀の外から見てもどー見ても枯れはて。入場料もいるので、そこはあきらめて隣の博物館へ。潮来の生物と、昔の農具なんかを展示している。けっこうおもしろかった。

◆12月22日 さようなら、また来ます
昼食をすませて、かずくんたちが帰りのバス停まで送ってくれた。潮来からだと満員で乗れないかもしれないので、一つ前のバス停まで連れていってくれた。これが正解で、一つ前のバス停でも結構満員近い。私ととりどんは通路を挟んで隣同士の席に座った。車内がシーンとしていたので、とりどんとほとんどしゃべれなかった。なんか私たちだけにぎやかなのはヒンシュクかいそうな雰囲気だった。

東京駅について、喫茶店に入るほど時間がなかったので、ホームで話しながら新幹線を待った。とりどんは別れのイメージがあって泣きそうになるから東京駅のホームは嫌いだと言っていたが、私は発車ギリギリまで話していたかったので、ホームで話そうと言った。しかし話さなきゃ話さなきゃと思うほど、言葉にならない。後から聞くととりどんも同じだったとか。私がとりどんの顔をじっと見ているせいか、とりどんは私の方をなかなか向いてくれない。「こっち向いてよ…」ロクに気持ちが言葉にできないまま、20分ぐらいたったろうか。発車。私はデッキに立ったまま、とりどんに手を振る。また来るよ…。絶対。


1泊2日の強行日程。移動に往復12時間かかっているので、みんなとしゃべれたのは20時間ぐらい。短いが濃い時間だった。帰ってから気が抜けたようだった。帰ってみると旅に出る前のドタバタも懐かしい。かけがえのない時間をありがとう。みんなに会えてよかった。そんな冬の日です。
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