地獄の3晩


◆◆金曜の話◆◆

金曜の昼、歯が痛くなった。それも尋常ではない痛さだ。たいていならガマンするのだが、この度は珍しく我慢できずに痛み止めを飲んだ。

私が子供の頃、虫歯の治療をしたところが今になって毎年1箇所以上壊れるので、1年に1回、多い時は半年に1回ぐらい歯医者に壊れた歯の修理のために行っている。(毎年、歯科検診で見つけて治療したんだから毎年壊れて当たり前か?。)その時に他に悪いところがあれば治してもらうので、ここ15年ぐらい冷たい水が歯にしみるとか、初期虫歯の症状はない。なので今回の痛みも虫歯ではないことは自信があり、最初は風邪で歯茎が腫れているのかと思っていた。

3時半過ぎごろ、昼に飲んだ痛み止めが切れ始めた。その日は仕事の帰りに髪を切って、毛染めをする予定だった。私は痛み止めを2回分しか持っておらず、1回分は昼に飲んでしまった。だいたい8時ごろまで効いてくれないと困るので、5時前まで薬を飲むのをガマンすることにした。4時ぐらいから完全に薬が切れて本格的に痛みだした。仕事が手につかない。気がついたら眉間にしわがよっているのがわかる。そしてなんとか5時前までガマンして、最後の薬を飲んだ。

痛み止めを飲んでも効き始めまで30分ぐらいはかかる。しばらくは痛いのをガマン。しかし仕事を終え、髪を切ろうと思っていた美容院についた頃には薬が効き始めて楽になった。行きつけの美容院で髪を切ったあと、劇団のリーダーの美容院に髪を染めに行った。いつもなら、リーダーの店に次のお客さんが来るまでしゃべっていくのだが、今日は薬が切れる時刻が迫っているので、飛んで帰った。

その夜、家に帰って歯が痛くて痛くてたまらない。アイスノンで冷やしてみてもダメ。そのうち熱が出てきて、アイスノンは歯よりも額に当てているほうが気持ちよくなった。気がつけばポカンと口が開いている。テレビを見る気にもなれない痛さなので、寝ることにした。寝るといっても、2時間おきにアイスノンを換えに起きるので、全く寝たような気がしなかった。


◆◆土曜の話◆◆

次の日、朝から歯が痛い。風邪薬を飲むためにケーキを少し食べた後、シャワーを浴びた。首を温めると少し痛みがラクになる気がした。熱もあるし、洗濯できそうな天気でもないので、今日は一日寝て養生しようと決めて布団に戻った。風邪薬と痛み止めを一度に飲めないし、何もしないでゴロゴロしているのに痛み止めを飲むのももったいないので、夕方まで痛みに耐えてゴロゴロしていた。しかし寝てばかりだとちっとも時間が進まない。本格的に昼寝をすると夜眠れなくなって、月曜からの生活に支障をきたす。なんとかごまかしごまかしやってきたが、どうでもガマンできなくなった。夕方は風邪薬を飲まないで痛み止めを飲んだ。そして気晴らしとせっかく薬を飲んだので動かなきゃと思い、7時から劇団の練習に行ってみることにした。

練習に行ったはいいが、その場にいるだけがやっとで全く戦力外だった。来るんじゃなかった。熱があるのでちょっと動けば汗がドバっと出て、すごく厚着をしているのに寒い。来てしまった以上、今更帰るわけにもいかないし困った。そして痛み止めの効き目は3時間。練習も3時間。練習時間にピッタリ合わせこんで薬を飲んだので、稽古場から家に帰った頃には薬が切れ初めていた。土曜の晩もアイスノンを取り替え取り替えで眠れなかった。さすがにこの頃には、「これは風邪ではない。親不知が他の歯を押しているに違いない」と思い始めた。


◆◆日曜の話◆◆

日曜の朝、やっぱり歯が痛い。昨日から38度を超える熱が出て大汗をかいているので、シャワーを浴びた。昨日と同じで、シャワーを浴びている間は何となく歯の痛みが薄れるような気がした。それで、首を温める事と歯の痛みがやわらぐ事が関係あるのかどうかわからないが、とりあえず温めてみようと、肩コリ用の電子レンジで温めて使うエリマキを使ってみた。しかしこれは20分ぐらいで冷めてしまう。しばらくして携帯用カイロがあったのを思い出し、ハンカチで首にしばってみた。効果は???どうだろう。気分だけか?

それはそうと熱があって大汗をかいているのに、さらに首にカイロである。メチャクチャ暑い。痛み止めは1日2回までしか飲むなと取説に書いてあった。1回は7時からの稽古のために、2回目はどうしてもガマンできなくなったときのために、と思ってなるべく何もしないで寝ている時は薬を飲まないようにしていた。昨日と同じように夜7時から10時の間に効くように痛み止めを飲んだが、この日は熱が下がらなかったので、稽古を休んだ。ここ2日、ロクなものを食べていないし、熱による消耗だけでも体はヘロヘロである。稽古が終わるころの時刻、ぼんやりと歯が痛み始めた。もう1回痛み止めを飲んで寝た。


私は土日の48時間で43時間ぐらいは布団の中にいたと思う。3時間は稽古、あと2時間は稽古場への移動と、シャワーと、冷蔵庫と寝室を行ったり来たり等々。入院患者が気が滅入るのがわかる気がした。寝てばかりではお腹がすかないので、食べる気にもなれない。金曜の晩から日曜の晩までに、食べたものと言えば牛乳とサバランというケーキ4個。それもすきっ腹に薬を飲まないために無理やりである。月曜に歯医者に行って歯を抜いた。やっぱり親不知であった。抜いてからは快調。私は地獄の淵から生き返った気分だ。大汗かいても暑いのをこらえて布団をひっかぶって寝ていたおかげで、長引いていた風邪はすっかりよくなった。

それはそうと、歯が痛み始めるのが1週間遅かったらと思うとぞっとする。1週間後の金土日はミュージカルの通し稽古、リハーサル、本番で、私が休むわけにはいかない。痛み止めを3日間連続で、12時間分以上飲んだらきっと腎臓を壊してしまうだろう。1週間早くてよかった。

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