神迎え神事をついに見た!!

その日は先週の寒さとうってかわって暖かい一日であった。夜になってもその 温かさの残り香は肌に感じることが出来る。月がこうこうと辺りを照らしている 。周りは街灯が少なく最近増えてきたコンビニの明るさが一際目立つ。若い人は やるせない思いが募るかもしれないところだが、僕のようなものにはかえって田 舎の匂いを感じれて心地よい。車は出雲大社の方向に向かっている。

11月9日。出雲は八百万神を迎える。場所は出雲大社から西に500mばかし先の 稲佐の浜。車はそこに向かっている。月光の光で闇が取り払われ神妙な雰囲気を 創り出している。

午後7時、浜には白装束に身を包んだ人々の群れ。

皆、神迎えの神事を見るために息を殺して集まっている。近所の人々ばかりで はなさそうである。歩いているとすれ違った人々が「出雲って観光化してないか らいいよね、見に来た価値があるわ」と言っていた。どうやら他県の人まで噂を 聞きつけてこの神迎えの神事を人目見ようと待ち構えているのである。暗めで人 々の顔形がはっきりせず、月明かりで白装束だけが薄暗い浜に浮かび上がってい るのを見ると、さながら八百万神が時を越えて稲佐の浜に集合しているかのよう な心地よい錯覚にとらわれる。

神迎えの神はセグロウミヘビという海蛇である。出雲では神在月の頃に稲佐の 浜にあがってくる海蛇を神の使いとして信仰する。これが竜神信仰である。この ことについては 「神在祭信仰」に詳しい。

海でお祓いをしに十数名の神官達が稲佐の浜に到着。周りを囲む我々は神官達 に言われた通りの所作をする。1時間あまりの儀式を終えた後、 「神在月信仰」に掲載の海蛇を持って神官達は出雲大社へ向かう。後を追う無言の大衆。

これによって出雲に八百万神を迎えることになる。1週間留まった末、また八 百万神はそれぞれの国へ帰っていく。

現代にこの儀式が残っていること自体、出雲の文化の素晴らしさを感じる。こ のような猫も杓子も観光ブームの日本で、ひっそりと生きずいている神在月神事 はただただ感嘆するばかりである。これ以上でもなくこれ以下でもいけない程度 の人々(我々)を従え八百万神は出雲におこしになった。きっと満足しているこ とだろう。

初めて神迎えの神事を見た僕は興奮覚めやらぬまま稲佐の浜を後にした。車に はまだ浜の香りが残っていた。

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