宮島の巨木伝説
・・三翁神社の大クス・・
 宮島の三翁神社は、平安時代末に平清盛によって、近江国の山王社の分身・分霊を宮島の地に移すために建てられた神社だと伝えられています。後に、厳島神社の功人である、三人の翁(佐伯の翁、岩木の翁、所の翁)を祀る神社になりました。
 三人の翁は、廿日市市の速谷神社・磐木権現宮(岩木神社)、大竹市の大瀧神社へ連なる系譜が現存しています。

速谷神社 岩木神社

 三翁神社境内に残るクスの御神木は、神社を覆い隠すほどの大きさです。樹齢は推定1000年、胴回りは10mはゆうに超します。大クスには、3畳ほどの室があり、子供のころ何度か雨宿りした記憶があります。現在は、入口を樹皮が巻き込んで穴が塞がれています。

 三翁神社には自由に入ることは出来ません。唯一、毎年10月23日の三翁神社祭の時だけは、参拝と天を覆うクスの木を仰ぎ見ることが出来ます。


 宮島の巨木伝説は、「厳島図会」の中にも見られます。現在の千畳閣にあったと伝えられる大クスは、天をおおい、そのクスの木1本で舟が1漕丸ごと造る事が出来ただけでなく、千畳閣を造る材料にしたと記録されています。豊臣秀吉の時代です。

 
「往古此地に橡樟(クス)の大樹ありけるが、めくり幾ほどという事をしらず。其高さ枝葉の繁茂せる、また詞におよふべくもあらず。この故に天の日影を障へかくして、朝にハ大野の地方をおほい、暮には高く弥嶺を超えて、能美・なさびの島に影せり。・・・さてかのきらせたまひし大木を以て作らしめたまひしハ、いとも名高き安高丸の御船なり。かく他材を交へずして全舟成就に及ぶのミか、なおその余材を経堂創建の料に足したまえる。是をもつて彼木の大なるもまた知べし。」
宮島町史資料編623ページ参照

 宮島には、弥山原生林があります。古くから信仰の対象として、又貴重な動植物の宝庫として、研究者により保護されてきました。天を覆う樫やモミを育む宮島の原生林は、立木の生命力の強さを体感でき、今なお手つかずの自然が残る貴重な島なのです。

 特に、クスの木は潮に強く、船底の材料として広く使われてきました。宮島の象徴である大鳥居は、巨大なクスの自然木で造られています。厳島神社の床には樹齢数百年を思わせるクスの床板が敷き詰められ、宝物館の玄関には、1875年に取り替えられた大鳥居の支柱(約10m)の輪切りが展示されています。宮島とクスの木は、古えより縁深い木なのです。

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