宮島の鹿について


 宮島の鹿は、来島者をお迎えする大切な観光資源です。現在島内に600頭前後いる鹿も、戦中戦後を通じて絶滅の危機に瀕しました。食糧難や進駐軍の狩猟によって鹿が激減したのです。戦後、宮島の鹿を再生するため、奈良公園から鹿を移入しました。厳島神社出口の一画に、繁殖場をつくったのです。「産めよ増やせよ」の努力の結果、鹿は、狭い繁殖場から飛び出すほどの頭数に増えました。解放された鹿は、山には帰らず町内に留まりました。山に返そうとしましが、人為的な移動策は功を奏しませんでした。町中の繁殖鹿が少しづつ山に帰り、宮島にいた鹿と交流を始めたのは、生存競争のためです。毎年繰り広げられる交流劇は、オス鹿の雄たけびから始まります。マーキングしたテリトリーの中を、ボス鹿が威風堂々のし歩くようになります。その匂いには閉口しますが、メス鹿にとっては、この上ない魅力なのでしょう。

 現在、宮島の鹿は、一頭のオス鹿が、20頭から30頭のメス鹿を従えてグループを作っています。駅前周辺、元宮島幼稚園跡、八ケ原周辺、もみじ谷、神社周辺、大元公園、杉之浦牡蠣殻捨て場周辺、包ケ浦運動場、鷹巣浦、入浜、大砂利 弥山山頂付近等々にグループ別けすることが出来ます。

 戦後始めた鹿の再生事業は、鹿対策が必要になるほど増産に成功しました。食害や人的被害が出るたびに、鹿を駆除すべきだと言われるようになりました。一方で、駆除に反対の声を上げる宮島鹿愛護派もできました。

 宮島では一貫して、鹿を自然に返し、鹿の頭数も自然淘汰に任せる政策がとられてきました。駅前のアナウンスで、「鹿に餌を与えないで下さい」と観光客にお願いするのはそのためです。しかし愛護派は、そうはさせじと餌やりに奔走しています。宮島の鹿の危機を訴え、カンパを集め餌やりをしているのです。これでは何の解決にもなりません。鹿と人と自然とをどう共生させるかが今必要な課題なのです。

 人が直接餌を与えるのではなく、鹿が自然に餌を採れる環境の整備が必要です。参考になるのが包ケ浦運動場です。広い草地に、島内最大のグループが生息しています。ここ10年来生息数が極端に増減してないところを見ると、草地と生息数が正比例しているのでしょう。これまで宮島の鹿の実態調査は度々行われました。頭数調査が中心で、グループ別の生息地域の色分けなどは聞いた事がありません。自然に餌が採れる環境整備のために、詳しい生息調査が必要です。どこに、どんな、どれだけの草地を作るれば良いのかが解るからです。

 鹿愛護派の方々が、県外からも餌やりに来島されます。鹿と人との境界を越え、手渡しで餌やりをしています。以前宮島では、餌場を山中に造りました。人から直接餌をもらうのではなく、自然に餌が採れるようにしました。人と鹿との境界を守ろうとしたからです。人を見ると警戒するのが自然の鹿の習性です。それが、餌欲しさに人に近づくばかりか、催促の鳴き声すらあげます。この習性が人身事故の原因になるのです。事故が起きるたびに鹿の駆除が話題になります。愛護と言いながら、していることは鹿を困らせることばかりです。ぜひとも、鹿と人との境界を守っていただきたいものです。

 宮島の鹿は大事な観光資源である前に、信仰の対象なのです。宮島の道路は鹿、人、優先道路です。これからも大切に守っていくことが宮島人の務めなのです。

現在、島内で問題になっているは、狸とイノシシです。狸は一時期狸特有の伝染病で、少なくなりましたが、最近町内でもよく見かけるようになりました。宮島固有種の蛇やカエルを食べるので困ります。春に、宮島ガエルの鳴き声が少なくなっているのは、寂しいことです。
宮島ガエルは4月〜5月にかけて、谷の小川や湧き水のある水溜りに産卵します。昼間はあまり鳴きませんが、夜は素晴らしい演奏会を聴くことが出来ます。

イノシシが山を掘り返しています。大好物のミミズを食べるためです。宮島のイノシシは戦時中捕獲されつくされ、最近まで見ることはありませんでした。おそらく海を渡ってきたのでしょう。まだ町中には出てきませんが、包ヶ浦牡蠣殻捨場付近で10数頭の群れを確認できます。子牛ほどの雄イノシシの牙は鋭く、人身事故が起きると大変です。安全・安心な島が、危険な島になりますから。山歩きには特に注意が必要です。

特記 5月20日記
 宮島の鹿が変です。お尻辺りの毛が抜け、毛も脱色したように成っています。お腹も膨れ、足も細くなっています。元気がありません。5月は夏毛に変わるシーズンですが、どうも変です。ちょうど、以前狸を絶滅させるほうど猛威をふるった「カイセン」病によく症状が似ています。餌の「干草」や「配合飼料」からうつるアナプラズマ病ではないか?かなりの勢いで広がっています。どなたかご存じの方は、宮島支所(0829−44−2003)に連絡してあげて下さい。

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