‡STILL‡
静かな夜の底で………
柔らかな黒髪が白い敷布の上で揺れ、誰かを呼ぶように、微かに紅い唇が動く…
どんな夢を見ているのか…
「………ん……」
吐息のように漏れた声は聞き取れない。
けれど、切な気に震える睫毛が愛しくて…静かに、白い額に乱れかかる髪を指先でかきあげた。
僅かに乱れていた寝息が、ゆっくりと落ち着いてゆく。
安らいだ寝顔にほっと息をつき、額に触れる指を頬に滑らせる。
その眠りを破らぬよう、そっと……大切な美しい宝石に触れるように……
美しい女…優しい女……強い女………
これまでに出会ったどんな女よりも………
愛しい女……………
その青い瞳に映る自分を、幸運だと思う。
その澄んだ心を守りたいという願いが、自分の力になっていることを知っている。
その笑顔に、どんなに自分の心が癒されているか…………
(知っているか?弥勒……)
知らなくてもいい。ただ伝えよう…幾度でも抱き締めて…
頬を包む手のひらに、何かを探すように伸ばされた白い指先が触れる。
柔らかな微笑みを浮かべ、紫焔はそっと、その指先に口付けた。
誰も知らない、静かな夜の底で……時が僅かに、その歩みを緩めた時間……
END
1999,6,22 K.K