SideStory 1 Star Flower
満天の星空の下…夜の空気に包まれて、男は独り佇んでいた。
草むらで啼く虫の声も、遠く聞こえる獣達の咆哮も、男の耳には届かない。
彼は、聞いていた……
遠い想い出の中の声を。
…………泣かないで…………
…………いつか、きっと…………
胸元で握りしめていた拳を開くと、小さな光がその手の平の上に浮かぶ。
淡く青いその光の中には、ひと粒の花の種。
「眠りにつきしもの…小さき地の娘…我が願いに応え…目覚めよ」
低く、静かな詠唱と共に、淡い光がふわりと拡がる。
種からすうっと伸びた細い緑の茎の先にみるみるうちに小さなつぼみが生まれ、やがて花開く。
星の形の花弁をもつ青い…小さな花……
「星華…」
柔らかな光に揺れる花を見つめて、男は呟いた。
静かに、優しく…愛しい者に語りかけるように……
「…お前は、正しかったよ……」
手を延ばし、花を天に捧げるように夜の闇にかざす。
闇に溶ける紫の瞳を細めて、彼は再び、星空を見上げた。
遠く瞬く…蒼き星の光…
男の手の中から小さな光がふわりと舞い上がる…
風に乗るように………星々の輝きに呼ばれるように……
それは、男のかけた術の力だったのか…それとも…………
花は淡く輝きながら空へと昇る…高く…高く…高く…………
やがて、星の光にまぎれるまで……
…………いつか、きっと、また会えるわ…………
…………あなたが、生きている限り…………
…………いつか…あなたにも解るわ…………
星空を見つめていた男の耳に、ふと別の声が届いた。
澄んだ空気を震わせて、彼を呼ぶ声。暖かな想いを込めて…
彼は微笑み、声の方へと歩き出す。
…………あなたの魂に触れる全ての中に…………
…………私は生きてる…………
遠ざかる広い背を見守るように、小さな青い星が瞬いていた…………
1999.5.30 K.K