九寨溝・黄龍旅行記(前編)

(2000年8月)

プロローグ

孔雀池 九寨溝は,四川省西北部の「アハ・チベット族・羌族自治州」にあり,岷山山脈に連なる標高2000〜4300mにある渓谷である。渓谷の中に9つのチベット人の集落があることからこの名が付いた。Y字形の地形で広さ720u,その中には118の湖と17の滝がある。透き通った湖水は陽光により青や緑など五色に輝き,湖面には鏡のように辺りの山や木々を映し出し,この世のものとは思えない景色を創り出している。


争艶彩池 黄龍は,九寨溝から少し離れた雪宝頂に連なる玉翠山のふもとの標高3000mあたりの奇景である。石灰岩質の黄色い河床にエメラルドグリーンの水をたたえた3500余りの彩池がうろこのように重なっていて(山口県の秋芳洞の百枚皿を大きくしたようなもの),黄色い龍がかけ上る姿に見えるところからこの名が付いた。




道路 道路が昔と比べて格段によくなっている。以前は車1台がやっと通れるような未舗装の道しかついてなかった。大型バスなどで行ける訳がなく,雨が降れば通行止めでツアーも組みにくかったらしい。しかし,道が便利になればなったで,人がたくさん押し寄せ,もはや秘境ではなくなったなという気がした。水はまだきれいです。どんどん汚れるかもしれないので,まだ行っていない人は早めに行く方がいいでしょう。

1日め(8月17日) 福岡〜上海〜成都 

第12回日中文化交流学会訪中団19名を乗せた中国東方航空のMU518便は,13時45分ほぼ定刻に福岡空港を飛び立ち,上海空港には予定よりも15分早く14時35分(これより現地時間)に到着した。入国審査のカウンターまで中国国際旅行社のYuさんが迎えに来てくれていた。これから1週間お世話になる通しのガイドさんである。去年の雲南省旅行へも同行してくれたので気心は知れている。顔見知りの団員と再会を喜び合っていた。

ここでトランジットの手続きをして四川航空の3U562便に乗り込んだが,16時50分の出発時間が過ぎてもなかなか飛び立たない。結局1時間遅れで飛び立ったが遅れた理由の説明はない。成都空港に着いたとき地面が濡れてあちこちに水たまりができていたので,もしやと思い現地ガイドの李さんに聞いたら,さっきまで成都はすごい雷雨だったとのこと。おそらくこれが遅れた原因だろうと勝手に満足する。

鍋巴肉片 空港から市内まで高速道路ができていた。5年前は30分以上はかかっていた道のりをアッという間にかけぬけた。ホテルの近くのレストランで遅い夕食をとり(写真は四川名物「鍋巴肉片」),成都で一番由緒ある錦江賓館に着いたのは22時を過ぎていた。ここで,四川省出身で今,広島の大学院で研究生の王さんが合流。夏休みの里帰りを利用して我々と同行することになった。

2日め(8月18日) 成都〜九寨溝

酸素ボンベ 朝5時30分起床。託送荷物をとりまとめ,急いで朝食をとり,7時過ぎにはホテルを出発した。今日は,成都から九寨溝まで450qをバスで一気に駆け抜ける強行軍だ。成都から都江堰までは高速道路(成灌高速)ができていて,8時には都江堰市に着く。「蜀犬,陽に吠ゆ」の成都には珍しく,今日は快晴である。都江堰でスプレー式の酸素ボンベ(1本70元)を団員の半数が購入。今回の旅行の最高到達地点は,標高4000mである。

トンネル 買い物とトイレ休憩を済ませて店を出たのが8時40分。これからは岷江に沿ってずっと北上していく。道は,ところどころ狭いところがありはするが,センターラインのある片側1車線の舗装道路がほぼ通じており,35人乗りの我々の大型バスでも楽に通行できるようになっている。最大のネックは,「もん川」県の車が1台しか通れないトンネルだ。手前から大渋滞。譲り合うことを美徳としない中国ではなかなか車が進まない。

途中,道路沿いにいくつもある有料トイレ(5角)で休憩をとりながら先へ進む。12時には茂県に入り,4日めに泊まる予定のホテルで昼食をとる。このあたり,道ばたにはリンゴばかりである。12時50分,昼食を済ませて出発。九寨溝までまだ250qくらい残っている。ただ,98年に舗装道路ができたおかげで所要時間は一気に縮まった。対岸の山腹には昔の未舗装道路が細い線のように続いて残っている。

景色のいいところで岷江の写真を撮ったりして進み,13時40分,羌族の小さな村を見学する。朽ち果てた吊り橋を渡って対岸に着いた。羌族の少女にカメラを向けるといやがってなかなか写真を撮らせてくれない。
岷江 吊り橋 羌族

じょう渓 14時に村を出て岷江と分かれて九十九折れの山道を登っていき,14時50分,地震によって壊滅した羌族の村の跡に水をせき止めてできた「じょう渓」の湖を見る。



山巴寺 16時30分,松藩(しょうばん)の町に入る。明の時代の城壁をバスから見ながら通過する。17時,料金所を過ぎて,九寨溝と黄龍の分かれ道の交差点にくる。我々は左折して九寨溝方面に行く。15分ほどして,山巴寺というチベット寺院に到着。標高は3100m。ここで,数名が頭痛を訴える。高山病であろう。私も頭が少しボーとしてきたので,18時に寺の見学を終えてバスに乗り込んでから19時35分に九寨溝のホテルに着くまで(約119q)はずっと寝ていた。そのため,この間の観察記録なし。すみません。

ホテル ホテルの手前で目が覚めた。建築中のホテルがずっと続いている。「あ〜ここはもう秘境ではないな」とこのとき思った。なにはともあれ,12時間半に及ぶバス旅行が終わった。体はくたくた。九龍賓館は三ツ星ホテルだからなのか4階なのにエレベーターもない。食事の後シャワーでも浴びて寝るかと思ったら,水は大量に出るのにお湯にしたらとたんに水量が減る。どうなっとるんだ〜。しかし,ここは中国,しかも山奥,我慢して早めに寝ることにした。

3日め(8月19日) 九寨溝

入場券売場 今日は,丸一日,九寨溝の観光だ。観光客が多いという事前情報を得ていたので,朝7時30分にはホテルを出発した。バスで5分ほどの入場券売り場についてびっくり。周りは,人,人,人。『人山人海』である。ガイドの李さんが入場券を買いに行ったままなかなか戻らない。高地のせいか,Tシャツにジャケットだけでは少し肌寒い。セーターを着てちょうどいいくらいだ。待つこと40分。ようやく李さんが戻ってきてバス乗り場に向かう。

九寨溝の中は,一般車両は進入禁止で,専用の天然ガスのバスに乗り換えなければならない。21人乗りのチャーターで2600元。これに一人当たり115元の入場料が必要だ。専用バスに乗り込むまでに,さらに20分かかった。 専用バスには,チベット族のガイドの楊さん(17才)が専属で付いた。
天然ガスのバス 九寨溝ガイドの楊さん

九寨溝は,総延長60qのYの字形の渓谷で,入口はYの字の最下部にあたる。 Yの字の右側は,風などの気象の関係で絶景を見るなら午前中がいいということで, まず,Yの字の右側の頂点をめざすこととし,そこから湖を見学しながら下って降りることにした。

諾日朗瀑布 バスは8時45分に出発。 しかし,頂点に着くまでに随所にすばらしい景色が現れ,次々にバスを止めさせることになった。 まず最初に,「諾日朗瀑布」でストップ。 カメラに入りきれない幅320mの滝である。写真集を見ると山の上から全体を撮っているが,時間がないのであきらめる。

鏡池 次にYの字の分岐点のところの高級トイレ(無料)で休憩し(水洗だけど排水処理はどうなってんだろう?), バスはYの字の右側へ入る。
そこから最初に現れたのは「鏡海(鏡池)」である。 うそのようにきれいな湖である。波一つない。午前中に見るべき湖の一つである。 鏡のような湖面に映る木々や山の美しさを十分堪能した。

次は,「珍珠(真珠)灘」,標高は2400m。岩を流れる水の上に木の板で作った散策道を歩いていく。板がとぎれた所から細い小道を通って崖を降りていくと真横に壮大な滝が現れた。「珍珠灘瀑布(真珠の滝)」である。辺り一面に飛び散る水しぶきがまるで真珠のようである。しばし無言・・・
珍珠灘 珍珠灘瀑布

ここから「孔雀河道(孔雀池)」(上のプロローグのところに写真掲載),「箭竹海(ササ池)」と停車したため,Y字形の右の頂点,「原始森林」に着いたときには,すでに11時15分になっていた。雲一つない空がとてもまぶしい。30元払えば,原始森林の中をに乗って散策することもできる。
原始森林から 馬

熊猫海 原始森林の散策は30分で切り上げて,今度は今来た道をバスで戻りながら湖をじっくり見ていくことにする。「草海」「天鵝海」はバスから見ただけで,「熊猫海(パンダ池)」で下車。大きな湖と少し小振りな滝があった。「ガイドブックには,水を飲みにくるジャイアントパンダに会えるかもしれない」と書いてあったが,誇大広告もいいところだ。こんなに観光化されてしまっては,会えるわけがないよ。

「熊猫海」からバスで5分下ったところにある「五花海(五花池)」でも下車。見よ!この澄んだ水を!水がウソみたいに透き通っているでしょう。水没林の間を泳ぐ魚の姿がくっきり見える。石灰岩質の地層から出る炭酸カルシウムによる浄化作用ということだが,水の中の木も腐らないほどきれいな水なのか。九寨溝の中で一番きれいな水でした。
五花池の水 五花池

「五花池」から少し下ると,そこはもうY字形の交点で,ここには食堂や土産物屋が集中しており,12時40分,ここで少し遅い昼食をとることにする。ここの料理,今回の中国旅行の中で一番日本人の口に合っていたような気がする。しかし,ここでも気になるのは排水処理。どこに流してんの?

王さん 腹ごしらえをして,13時35分,今度はY字形の左の頂点を目指して出発。日差しがずっと照りつけるため,午後になると午前中の寒さがウソのように,Tシャツ1枚になっても汗が出てくる。
頂点まで30分かかるということなので,バスの中で歌合戦が始まった。四川省ガイドの李さんが口火をきり,九寨溝のガイドの楊さん,スルーガイドのYuさん,留学生の王さんと中国人が続き,我々旅行団からも数名がお返しに歌を披露した。


長海 そうこうしているうちに,「長海」に着く。長さ7.5q,幅200m,深さ88mの大きな湖である。海抜は3102m。湖面までの石段を上り下りすると,少し息切れがした。この長海が,九寨溝の最高地点で,午前中と同じようにここから来た道を見学しながら戻っていく。

五彩池 最初に「五彩池」で停車。189段あるという石段を降りるということで,私を含め半数が遠慮した(高地であるため激しい運動を避けた)。見学にいった人たちが戻ってくる間に高山植物のヤナギランを撮影(トップページの壁紙に使用)。

季節の海 その次に,「季節の海」が現れる。上,中,下の3つの湖である。「上」の湖は夏だけ水がたまり,「中」の湖は雨期でも水がたまらないという。

この辺りから,みんなの疲れがピークに達し,誰も全部の湖をバスから降りて見たいと言わなくなりだした。これ以後は李さんのお勧めの2〜3カ所だけを紹介してくれるよう頼んだ。「犀牛海(サイの池)」は通過し,15時40分,「老虎海(トラの池)」でバスを降り,「樹正瀑布(樹正の滝)」から「樹正群海」を見ながら遊歩道を歩いていると幾分元気を取り戻した。
樹正の滝 樹正群海

臥龍池 次に「臥龍海(臥龍池)」に着いたときにも誰も降りようと言わなかったが,私は絶景のポイントと心得ていたので,迷わずバスを停めてもらい写真を撮った。湖の真ん中に横たわる黄色い龍の姿が見えますか?
その後は,「火花海(花火池)」,「芦の海」は通過。「盆景(盆栽)灘」で下車し,少し休憩した後,見学を終了することにした。ホテルまでは,この天然ガスのバスに乗ったまま,送ってもらえることになった。

九寨溝は,成都からのアクセス道が整備され,ホテルも林立し,風景区内の中でさえも舗装道路が整備され,天然ガスの専用バスがひしめき合い,景色は確かにすばらしいところではあるが,もはや,秘境ではない。ガイドの李さんから得た情報では,この日の入場者は5000人ということだった。

土産物屋 体はくたくただが,せっかく来たのだからと,夕食後に数人でホテルの近くの土産物屋に出かけてみることにした。「タンカ画」を買いたい人がいたので,留学生の王さんがホテルの人にどこで買ったらいいかを尋ねたら,ご親切にもホテルのボーイが休憩時間を利用してついてきてくれるという。絵を買った後も,何かほかに買いたいものはないかとすごく親切である。もちろん目当ては美人の王さんだろうが〜(この〜)。ホテルに帰った後,明日の朝は今日より早く起きねばならないのですぐに寝ることにした。
九寨溝・黄龍旅行記(後編)に続く。


忘れがたき中国旅行 四川省 九寨溝・黄龍旅行記(後編)
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