校舎裏という場所に、掃除時間以外で足を踏み入れるようがあるような用事がある人間は大勢いるわけではない。それもそのはずで、世間的に校舎裏という場所は「人目に付かない場所」という暗黙の了解が成立しており、それは同時に「人には見られたくない」という、なにやらやましいことをたくらむ人間が利用するものだ、とアスカを含めた大勢の生徒は考えていた。
 その彼女が昼休みが始まってすぐ、ヒカリとのお喋りも早々にうち切ってこの場所で佇んでいたのは一時の気の迷いとしか説明の理由が見つからなかったし、アスカ自身も気まぐれであることを自覚していたのだった。
 なんで呼び出しに応じたのか、などという命題を考えるのは面倒だったので気にしないことにした。いろいろ要因はあるのだろうが、手紙に記されていた指定場所が校舎裏で、日付が今日、それを読んでいたときにムシャクシャしていたという、いくつかの偶然が重なり合った結果、こうして彼女は胡散臭いと言い捨ている場所に足を運んできたのだった。
 こうやって呼び出されたのは初めだというわけではない。昨年入学したての頃はおもしろ半分で応じていたものの、答えは言わずとすべてNOであった。それに告白は皆いろいろバリエーションはあったのだが、如何せんアスカにはその気がない。一学期が半分終わる頃にはすっかり飽きてしまったので、それ以後は靴箱にに投函された白い便箋は目を通されることもなくゴミ箱へ直行する羽目になっていたのだった。
 それだけに昨日の夕方、勇気を振り絞りつつ人目を気にしながらコソコソと手紙をロッカーに入れた男子生徒はすばらしくラッキーだったといえる。来てくれただけでも奇跡的確率であり、惣流アスカが碇シンジを見限って自分に乗り換えるつもりなのでは!? と先走るのも無理はない。
 この時も緊張するはずもないので、アスカは暇そうにあてもなく遠くの空を見上げていた。
「あ、」
 素っ頓狂な声がどこからともなく聞こえた。
 アスカがキョロキョロと辺りを見回していると、体を感動でわななかせている男子生徒がいた。声がした方をアスカは見た。シンジより頭一つ背が高い。ということはアスカよりも一回り大きいということになる。アスカは2メートルほど手前で立ち止まり、彼の顔を確認する。見たことがないわけではない、といった程度で、やはり今まで気にとめたこともないような顔だった。それに相手は靴の色から3年生だとわかったが、学年が違う分、余計に接点は薄い。
 アスカの醒めた目が「早くしてくれ」と言っていた。が、男子生徒はそれに気がつかず、ただただ自分の妄想とともに突っ走っている。すでに彼の頭の中では『ここに彼女が現れた=あなたの要求はすべてオッケー』と、二つの意味がいつのまにか同化しており、さらには彼の妄想の中でアスカは目を閉じキスをせがんでいたりする。
 アスカはまさしくバカを見る目つきで彼を見ていたが、話をややこしくしたくなかったので、ここはあえて黙っておくことにした。
「あ、あの」
「何でしょうか? 一応私も暇じゃないから手短にお願いします」
 アスカが丁寧な言葉を使うのには二つの意味がある。本当に尊敬に値したり目上であると感じた場合、もう一つは見下しきってバカにしているときである。そうでなかったら、彼女は常に誰でもタメ口で接することにしていた。今、アスカの声にはやや疲れたような響きがあった。それは自虐的なもので、目の前の男子生徒のことなど既にどうでも良くなってきている証拠である。とりあえず肝心なセリフを聞いたらさっさとご飯を食べよう、と思っていた。
「ありがとう!」
 感極まった、というより極まりきってネジが2,3本ぶっ飛んでいた男子生徒は、心の赴くままにアスカにダッシュをかけた。突然のことでアスカは身構えたがなにもできず、次の瞬間には抱きしめる男子生徒の腕の中にいた。










 シンジは別に覗いていたわけではない。見たくてその現場を眺めていたわけでもない。
 ただ偶然に、トウジやケンスケらと渡り廊下を連れだって歩いていて、アスカの姿を見つけただけにすぎなかった。しかし、アスカの油断を付いて男子生徒が抱きつく瞬間をシンジの両目が捉えたという現実に何ら変わりはなかった。そしてシンジはかつてない衝撃を受けているのも、紛れもなく真実の範疇である。
「おいシンジどうした? いくぞー」
 五メートルほど離れたところでケンスケが振り返って呼んでいた。
「……あ、うん」
 突然元気がなくなったシンジを不思議に思い、2人が近づいてこようとしていたので、彼は慌ててケンスケらの元に駆け寄った。窓の外から見下ろせる、親指ほどの大きさのアスカの姿を彼らには見られたくなかったのだ。
「何でもないよ。早く行こう」
 トウジは首を捻ったものの、「ま、いつものことや」と割り切った様子で、中断されていた「コンビニの美味しいおむすびは三角か、それとも丸形か」という会話内容の続きを熱心に話し始めた。先ほどまでは笑いながらトウジの論説に耳を傾けていたシンジだったが、今は既に左耳から右耳へとトウジの言葉は流れていってしまう。
「センセもそう思うやろ?」
「うん…」
 同意を求められても常に生返事なのだが、トウジは昨晩同じことを聞かせた妹に途中で「くだらない」の一言で切って捨てられていたため、よっぽど嬉しかったのだろう。彼は聞いてくれているシンジの姿をよく見ていなかった。トウジは調子に乗って自分の言葉に酔っていた。
 エスカレートしていくトウジの隣で、ケンスケだけがシンジの様子の変化に目を細めていた。
 一方、シンジは全く二人など目に入らない。シンジの視界は危険物を察知して回避する、という本能で識別している物体以外に見えているものはなかった。彼の視界というスクリーンには、ビデオテープよろしく、先ほどのアスカと見知らぬ男子生徒が何度も何度もリフレインされていた。その割には頭の中でどす黒い感情が渦巻いているような、いささか惨めな混乱は起こっていない。。
 これが真っ白になっている状態なんだなぁ、とやけに落ち着いて間延びした発想にたどり着いても、その白さ故に何もかもが深海の底に引き込まれるように沈み込んで、彼の心の中には固形物がまったく形跡を残さない。この時は、多少の波だけがシンジの心を不安にさせている状態といえた。
 足下がおぼつかなくなり、少しだけ平衡感覚が失われていることは自覚できた。
 シンジは結局、教室に帰った後もそのままの状態だった。アスカもすぐ後に帰ってきて放心状態のシンジの顔を見るなり眉をひそめたが、彼女自身がイライラしながらもそのまま席に着き誰も側に近寄らせなかった。そしてすぐに何か思い出したように教室を出ていった。その後、休憩終了後も二人の席と至近だったせいで、レイは一言も喋ることができずに午後から胃の痛い思いをすることになる。
 不機嫌が絶頂のアスカ。
 気が抜けていて全く他の物事が目に見えていないシンジ。
 二人ともらしいといえばらしいんだけど、これはちょっとねぇ……。
 レイは心の中でつぶやき、深々とため息をつく。
 この様子では話しかけた後のほうが怖そうで、触らぬ神に何とやら。この際知らん振りを決め込むことにして、久しぶりに真面目に午後の授業を聞いていることにした。
 六時間目が終わる頃になると、さすがにシンジも落ち着きを取り戻してきたらしく、レイの「大丈夫?」という言葉に「平気だよ」と答えるようになっていた。しかし顔色の悪さは隠しようもなく、目の下に隈がくっきりと現れている。
「後でいいからさ、元気がない理由おしえてくんない?」
 シンジはためらいがちに頷きながら「後でね」と呟いた。
「ね、甘いものでもとって、気分転換しなよ」
 レイは思いだしたように、鞄の中からアメの袋をとりだし、一つ手にとってシンジに差し出した。
 むげに断るのも悪い、と思ってそれを受け取る。が、口に入れる気分ではなかった。レイがじっと見ているので、仕方なく口に入れる。
「ホントは持って来ちゃいけないんだけどね」
 いたずらっ子の表情で、レイは言った。シンジは曖昧に笑ってごまかした。
 レイはそれでも心配そうな視線をシンジに向けている。それがシンジには今、とても痛く感じられてしまう。
 シンジはレイの視線から逃れるように、まっすぐな瞳から顔を背けなくてはならない。
 アメ玉は、確かに甘かった。










 シンジにすばらしく悪いタイミングで偶然見られていたなどとは露も思わないアスカ。彼女の中ではこの一件に関して既に片が付いていた。というのも、抱きついてきた男子はシンジが視線をはずした瞬間に、下顎へ強烈な衝撃を浴びてひっくり返っていたからである。
 もちろんアスカの容赦ないアッパーが人間の弱点に寸分違わぬ位置へ入ったからで、彼はピエロのようにおかしな体勢でひっくり返ると、軽く泡を吹きながら失神してしまった。アスカが立ち去った後、人が倒れているのを不振に思った生徒が教師に連絡し、一番最初に駆けつけた葛城ミサト教諭は一見で誰の仕業かを見破ったものの、すぐさま駆けつけた体育教師と共に保健室に彼を運ばねばならなかった。誰がこんなことをしたか追及は後回しにするしかない。横では男子生徒を担いだ体育教師が眉をひそめながら「ケンカとはけしからん」と、頭から湯気を吹き出すほどに怒りを沸騰させていたが、くっきりと残っている手形が男子に比べて一回り小さいことに気が付いていないらしい。
 下から軽くその跡をのぞきこんでミサトは確信を深めた。跡の付き具合、人差し指の第一関節のところが特に赤くなっているようなパンチ。よくシンジが顔に作ってくる者と同種である。もっとも、こちらの方は手加減なしのようだが、シンジの赤い跡は朝のHR後に消えていることが多い。
「まったくあのブァカは……ちょっとは加減しなさいよ」
 ミサトはため息をつき、眉間に指を当てて呟いた。
「葛城先生、どうかしましたか?」
「え、いえ、なんでも」
 オホホホホ、と口に手を当てて笑うミサトを体育教師はいぶかしげに見たが、それ以上は追及する気がないらしい。というよりも犯人が誰なのかわからないだけに、「この男子生徒は面倒なことを起こしてくれた」と言いたそうな面もちである。
 アスカもこの生徒もお互い名乗り出ることはないだろう、とミサトは思う。二人とも全くもって不名誉だからである。アスカは一瞬の隙をつかれたという思いがあり、この男子生徒は年下の女の子にのされたのだから、おそらく2人とも名乗り出たり、相手を白状したりすることはない。ミサトの予測は、ゲヒルンの誇るスーパーコンピューターMAGIの演算でも高確立で同じ結論を導き出すだろう。
 男子生徒は保健室のベッド上で目覚めたが、青ざめて口を閉ざしてしまった以上教師も追及できず、ミサトは表面上は困った振りを装いながらも心の中では安心のため息を付いていた。
 そんな教師の苦労をミサトが背負い込まねばならなくなった張本人は何をしていたかといえば、ヒカリの元に返ってくるなり自棄食いを始めていた。昼休みはほとんど終わろうとしていた頃に余った時間でのおしゃべり目的のレイが屋上にやってきたのだが、そこで見たのは通常の1.5倍近い量の食事をこなして「うーうー」と苦しんでいるアスカの姿だった。
 きっちり一分間それをおもしろそうに眺めている間、レイはいろいろな空想に思いをはせたのだろうが、とりあえずからかう前に聞いてみることにした。
「……何やってんの?」
 寝転がって大の字になっているアスカは、眼球だけをレイの方に向けた。が、すぐに空の雲へ視線を戻す。アスカが何も言わない、というよりしゃべれないので必然的にヒカリが代弁することになる。
「何が原因か知らないけど、ここに帰って来てから自棄食いし始めたの」とヒカリの言葉を聞き、レイはニヤリとほくそ笑んだ。まるで小悪魔がイタズラを思いついたみたいだ、とヒカリは思った。この言葉で、レイは午後の時間を苦痛に感じる要因を大きくしたのである。
 レイはアスカの傍らに仁王立ちし、満面の笑みでアスカを見下ろしていた。
「大きなお腹を抱えてふーふー……。まさか孕んじゃったりした?」
 アスカの手元にあった小石が、レイの笑顔を襲うまでに1秒を必要としなかった。










 いつも気分が優れていることが多いとはいえないシンジだったが、この日は最悪の部類だったといえるだろう。暗い顔をしているシンジに、元気を出させようとあれやこれやと画策していたトウジやレイではあったが、今回はシンジに回復らしき兆候がゼロだったため、なすすべなく諦めざるをえなかった。いつもやったらもうへそ曲げるのも終わってんねん、とトウジはあきれたように言い、レイは曖昧に笑って頷きながらも本気で心配し始めていた。
 程度の差は有りこそすれ、二人とも「何かがいつもと違う」と感じていた点で共通している。そして個人の心配事項は、各々の友人に話すことに繋がっていく。
「ケンスケ、おまえはどう見る?」
「シンジか?」
 体育をサボったケンスケは軍事専門雑誌の記事から目を上げ、トウジの方を仰ぎ見た。トウジの方は体操服だったが、いつものジャージ姿と大差がない。
「せや。自虐人間はいつものこととしてもやな、今日のあいつはどっかおかしいで」
 確かにトウジの言うとおりであった。シンジは体育中もボーっとしすぎて、種目であったソフトボールの打球を見事に顔面でキャッチした。サードに穴があく原因を作ったのは打者の方だったが、シンジは「碇っ!」とショートに叫ばれても反応がなかったことを見ると、彼の方に非があったのは明らかである。顔面に大きなあざができたシンジは保健室でアイシング中だった。もっとも、ホットスポットに集中力のない人間を守らせた体育教師こそ、不注意と責任が帰属されても仕方なかったかもしれない。
 しかし、トウジたちは本人がいないところで言いたい放題である。が、トウジの場合は悪意がないので嫌みに聞こえることはまずない。誰でもきつい冗談に毛が生えた程度にとれるのは、彼の人柄によるところが大きかった。
「うーん。そういえば、昼休みの途中から急に元気がなくなっただろ?」
「せやったな」
 トウジは思い出したように頷く。ケンスケは雑誌を机の上に置いて、替わりにビデオカメラを取り出した。
「百聞は一見にしかず、ってな。見てみよう」
 そういって昼休み頃撮影したディスクをセットして再生ボタンを押す。カチャっとリードされている音が始まると、液晶には日が高い頃の廊下の絵が映し出された。余分なシーンは先送りされ、途中からシンジが歩いている画が現れる。そこで歩いているシンジは元気があり、まだ顔には笑みがあった。
 シンジは渡り廊下の辺りで抱えていたプリントを数枚落としてしまい、すぐ後方を歩いていたトウジとケンスケの二人は現場を追い抜いた。ビデオはそれをとらえており、次に幾人かの女子生徒の像がファインダーに吸い込まれていることが確認できた。相田少年がこの時ビデオカメラを回していたのは、主にそれ方面の目的であり、シンジやトウジや風景画を撮っていたように振る舞っていたのは、あくまで誤魔化すためのカモフラージュである。
 しばらくしても追いついてこないシンジを不審に思った二人が振り返ると、立ち上がったシンジが窓の外を凝視している姿が映っていた。驚きが顔に張り付いているのが一目瞭然であった。
 トウジもこの時はよく覚えている。持論を展開していて「どっちも美味い」と結論づけたおむすびの形論争の佳境にさしかかったあたりだったからだ。
『おいシンジどうした? いくぞー』
 ビデオの中でケンスケが言い、シンジは思い出したようにカメラの方を見た。
 そしてトウジが喋り、シンジが聞き、その合間に少女達の映像をとらえるという構図に変わりはなかったものの、前半と後半ではシンジの意気消沈だけは際だって目立っていた。
「ここまで分かりやすい落ち込み方をするやつもいないな」
 ケンスケはまったくだと言いたげに頷いているトウジに「お前はこれより分かりやすいだろうけどな」と言ってやろうと思ったが、それより「落ち込むっていう思考回路の存在が怪しい」と思ったので、それは別の機会にすることにした。
「あの時間、窓の外のあの場所でなんかあったみたいやな」
「だね。で、どうするんだ?」
 訊ねるケンスケの目は笑っている。もうどうするかは以心伝心も同然である。
「調べるにきまっとるやろ。大切な友のためや」
 というトウジは、誰よりも楽しそうな笑顔であった。
 一方、レイ達も負けず劣らずの密談を掃除時間に繰り広げていた。ヒカリは、レイの顔から余裕が少しずつ無くなっているのが手に取るようにわかっていた。
「どうしたんだろうね。あの2人」
 レイの声に普段の闊達さがない。テロ事件前から少し情緒不安定気味になっているところがあり、ヒカリはレイに対しても言葉を選んで喋らねばならないことがあった。ここでは間違っても「大丈夫なんじゃないの?」という言葉を突き放した口調で言ってはならないことくらい、ヒカリは重々承知の上である。かといって同情するとさらに相手を傷つけることもあり、言葉はさらに慎重にならざるを得なかった。
「碇君の方は特にいつにもまして酷かったわね」
「あ、ヒカリもそう思う? おまけにさあ、アスカも超不機嫌だったし、わたし胃が痛くなっちゃいそうだったよ。トホホ……」
 ヒカリは苦笑した。
「2人のすぐ側にいた綾波さんが一番不健康だったかもしれないわね」
「やっぱりそう思うでしょ? 実はそうだったりするんだけどね」
 と言って、レイはまたヒカリの苦笑を誘った。現在教室に男子生徒の目がないのをいいことに、レイは行儀悪く足を机の上に投げ出す。
「ちょっと、丸見えよ」
 スカートの中を見たヒカリの方が顔を赤らめる。
「気にしない気にしない」
「一休さんじゃないんだから」
「わかったわよーぅ」
 と言いつつ、いすを後ろに傾けてバランスをとる。やめる気はないようなので、ヒカリも深くはつっこまなかった。
「でもなぁー。気になるなぁー…」
 ボーっとした声でレイが呟くように言った。恐らくそれは本心なのだろう。ただし、スカートの中ではない。
「そんなに気になる?」
「もっちろん」
「なら、たまには探偵の真似事してみるのもいいんじゃないかな?」
 ヒカリは冗談半分で言ったのだが、レイの瞳の輝きが急速に増していく。だが体と足を通常状態に戻そうとして失敗し、見事にイスごと後ろにひっくり返ってしまった。
「あつつ……」
 コブでもできたのだろう、涙目になりながらレイが患部を押さえる。
「大丈夫? 保健室行く?」
「やめとく」
 ちなみにアスカは不機嫌ながらも、シンジのケガを聞いて保健室に様子を見に行ったまま帰ってきていない。その際「何やってんのよ、バカシンジ!」と言った声はいつもに増して威圧感があった。
 今のアスカが道を歩けば、泣く子も黙って道を譲るだろう。
「と、とりあえずさ、今の意見採用」
「え、探偵の真似事って、あれのこと?」
「そうそう。ナイスアイデアじゃないよー。やっぱ文殊の知恵よねぇー」
 いや、そこまで大げさなことでもない、それに3人いないとその言葉は使わないと思う。よっぽどそう言いたかったのだが、レイの笑顔を見ているとそれも引っ込んでいった。
「んじゃ、がんばりましょうか」
「はい? 何を?」
「探偵業」
「誰が?」
 ヒカリはいやな予感がして半歩引く。しかしレイは一歩踏みだし、正面からガチッと彼女の両肩をつかんだ。そして小首を傾げてにっこりと笑う。
「さて、さっそく聞き込みから……」
「なんで私まで……」
「ん? なんか言った?」
 振り返りながらレイは笑っていた。が、しかし、その笑顔には違和感が漂っていた。笑っているくせに全然笑っているように見えないのである。拒否しがたい威圧感を感じて、ヒカリはとぼとぼとレイの後を付いていく羽目になった。
 ヒラヒラと短いスカートの丈を踊らせるようにして歩くレイと肩を落として歩くヒカリの姿は対照的であり、トウジとケンスケがすれ違うときにもカメラの中に2人の姿が映っていた。ちなみに、彼らは同じ目的であるとは露知らず、これからどう調査するかについて脳内に思案を駆けめぐらせていた。




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