周暁文(チョウ・シャオウェン)監督 <第五世代>


追跡者(最后的瘋狂)
よく似た環境に育ちながら殺人犯と公安軽視という追うものと追われるものとに分かれた二人の青年を描く
(1987年西安映画製作所/監督:周暁文/映像文化L)
狂気の代償(瘋狂的代価)
レイプされた妹の犯人をわずかな手がかりから執拗に捜す姉の話。
(1988年西安映画製作所/監督:周暁文/映像文化L)
麻花売りの女(アルモ)
山奥の農村に住む働き者で意地っ張りな主婦・アルモが,県知事でも買えないような大きなテレビを買うために夢中になる物語。
アルモは,自分と仲の悪い隣家のシャーツ(瞎子)の奥さんのところに,一人息子のフーヅ(虎子)が,いつもテレビを見させてもらいに行くのが気に入らない。シャーツの奥さんのところには跡取息子がいないことから二人はいつも感情的に合わないのだ。アルモは隣より大きなテレビを買おうと決心した。元村長だったアルモの夫は,身体が悪くて働いていないため,一家の生計は,彼女が朝早くから小麦粉を足でこねて作る,ねじり菓子・麻花(マーホア)の売上にたよっていた。
彼女は自分一人でテレビ代を稼がねばならず,町の菓子工場に住み込みで働いたり,献血がお金になることを知ると血を売ったりして死に物狂いで働きます。そんな思いをしてやっとのことで手に入れたテレビが自分の家に来たとたん,彼女は目標を見失い,放心状態になってしまいます。
映画の終わりでは,ものめずらしさで見に来ていた近所の人が帰り,誰もいなくなった部屋で,放送の終了したテレビがついたまま一家三人が疲れて寝ています。
働かない役立たずの夫と働き者の妻。隣家は,その反対でバリバリ稼ぐ夫と口ばかりうるさい太った女房。対比がおもしろいですね。働き者同士が関係を持っちゃうってのも自然と納得したりして・・・テレビに夢中になっていたアルモがテレビを手に入れたとたんにテレビなどどうでもよくなり,テレビを買うのを反対していた夫がテレビが来たら一番はしゃぎだすという展開もまたおもしろいです。
(1994年上海映画製作所/監督:周暁文/主演:アイ・リーヤー/教育TV,2001.1.23renewal)
異聞・始皇帝謀殺(秦頌)
秦王ユン・ジョンは,中国を統一するため次々と諸国を制圧し,残るは燕,楚,斉の3国のみとなっていた。燕の国では,自国が攻められる前に秦王を暗殺しようと計画し刺客を送り込んだが失敗し,怒った秦王は一気に燕を滅ぼした。
燕は,ユン・ジョンが幼少の頃,人質生活を送っていたところで(史実では,秦王・政は趙で生まれたのではなかったかな?ま,いいか),そこには同じ乳母から乳をもらって兄弟同然に育ったカオ・ジアンリがいた。ジアンリの弾く琴はとても感動的で幼いユン・ジョンに勇気と希望と力を与えてくれた。このため,秦王となったユン・ジョンは,滅ぼした燕からジアンリを呼び寄せ,中国統一後の人心を一つにまとめるための手段として国歌を作らせようとした。
しかし,ジアンリは,燕を滅ぼした秦王を憎み,なかなか国歌を作ろうとしないばかりか,絶食して自らの命を絶とうとする。そこに,秦王の長女が絡んできて,ジアンリに絶食をやめさせ,作曲をさせようとする・・・
その後,秦王は中国を統一し,始皇帝への即位式典が執り行われている最中に,ジアンリ(秦王の長女に手を出した罰として目を燻ってつぶされていた)が,演説中の始皇帝ユン・ジョンに琴で殴りかかる・・・
原題の「秦頌」は,「秦をほめたたえる」といった意味だろうか?映画の中では,これを「国歌」と訳していたみたいだけど。邦題タイトルの「謀殺」とは,なんだろう?冒頭で燕の刺客が巻物の中に隠していた小刀で始皇帝を暗殺しようとするシーンは,多少演出を変えてはいるが,陳凱歌監督の『始皇帝暗殺』のハイライトシーンと同じ場面だ。これを「謀殺」というなら映画は30分もしないうちに終わってしまうことになる。
人名を字幕ではカタカナで書いていたため人間関係がわかりにくかったが,ユン・ジョンは,発音がyingzhengで秦王・えい政のことで,カオ・ジアンリは高漸離(こうぜんり)のことで,『始皇帝暗殺』のラストで,刺客・荊軻(けいか)の墓の前で「風蕭々(しょうしょう)として易水寒し・・・」と歌っていたあの親友のことではないかと思います。「史記」には,高漸離は筑(ちく〜琴に似た楽器)の名手で,親友・荊軻が秦王暗殺のため燕を旅立つときには,易水のほとりで筑を打って見送ったとあり,後に荊軻の敵をとるため鉛の入った筑を投げて始皇帝を殺そうとしたともありますから,おそらくここから題材を採り,人物設定を大胆に変えて秦王の乳兄弟ということにしたのではないでしょうか。だとすると,「謀殺」とは,最初と最後の2つの暗殺のことをまとめて言っているのでしょうか?
姜文の始皇帝は,『始皇帝暗殺』の李雪健の始皇帝より貫禄があって,いいと思います。
全編で幾度となく歌われる「2匹の子犬がおいしい骨の夢をかんでいる・・・」というあの子守歌がとても印象的ですが,一本の骨を争っていた2匹の子犬も一方が死ねば気力を失い,即位から9年後に始皇帝は病死し,その5年後には秦帝国も滅亡してしまいます。
(1996年西安映画製作所・香港/監督:周暁文/主演:姜文/2000.8.5video)