11リー・ハンシャン監督


西太后(垂簾聴政)
西太后(1835〜1908)が17才で咸豊帝の側室として後宮に入ってから,帝の寵愛を得てその間に生まれた同治帝を6才で即位させるまで(西太后26才)における権力獲得のための野望とその実現を描く。
この時代,中国は,内には1851年から太平天国の乱が起こり,外には1856年のアロー号事件により英仏連合軍が広東,天津に侵攻し,1860年には北京の広大な円明園が略奪と焼き打ちにあうなどまさに動乱の時代であったが,熱河の避暑山荘に戦火を逃れていた西太后は,自分の権力を拡大することばかりを考えていた。
このたび映画を見なおして,ナレーションがやたら多いことに気がついた。中国史に疎い日本人への過剰サービスかと思ったら,そうではなく日本公開版はオリジナル版を大幅にカットしたためナレーションで間を繋いだということである。(何ということをするんだ!)
監督のリー・ハンシャンは歴史物が得意で,この映画,香港合作といっても中国側は俳優と故宮,頤和園などの本物の史跡を提供しただけである。
西太后の野望とその時代背景となる中国の置かれた状況は,よく描かれているが,感動がそれほど残らない。ただ,ぼく自身この映画を観るまで西太后についてはよく知らなかったし,中国史上有数の悪女・西太后を世に知らしめた価値は大きい。
ラストで,側室の中で一番咸豊帝に寵愛されていたために西太后の反感を買い,手足を切られ首だけ出して水がめの中に入れられた麗姫を眺めるシーンは西太后の残虐性をよく表しているが,彼女の野望と権力欲そしてそのための非人道的な仕打ちはとどまるところを知らない。それは続編に続くことになる。
(1984年香港・中国/監督:リー・ハンシャン/俳優:劉暁慶,レオン・カーファイ/2000.7.23renewal)
火龍
清朝最後の皇帝・溥儀が,戦後,撫順の戦犯収容所に入れられてから文革のさなか,1967年10月にガンのため北京の病院で息を引き取るまでの彼の「後半生」を綴る。
溥儀の「前半生」を描いたベルトリッチの『ラストエンペラー』のような華麗さはなく,平民として妻と暮らすつつましやかだが誠実で愛のある日常をコミカルに描いている。「火龍」とは,火葬にされた皇帝のことで,平民に落ちた後に死んだ溥儀は,中国の歴史上初めて火葬にされた皇帝でした。
戦犯収容所で自己改造し,北京で平民として生活し始めた溥儀は,1962年4月,56才のとき19才年下の看護婦・李淑賢と結婚します。皇帝時代,溥儀には皇后・婉容のほかに第二夫人が3人いたので,彼女は5人目の妻ということになります。溥儀にとっては,はじめて恋愛をし,普通の家庭を持ち,真の意味で妻と呼べる女性を持つ喜びを味わいます(5年半の短い期間でしたが)。しかし,李淑賢にとっては,炊事・洗濯をはじめ家事が何もできない大きな子供・溥儀をかかえ,大変な苦労をしていくことになります。・・・
溥儀は,『西太后』で咸豊帝を演じたレオン・カーファイが演じています。溥儀の奥さん役の潘虹は,『人,中年に至る』では女医さんの役でしたね。この人は白衣が似合うなあ。(関係ないか)
文革中は,旧皇族ということなので,紅衛兵に見つかったら,自己批判させられた上,つるし上げにあうところを,溥儀には周恩来の庇護がありました。周恩来は毛沢東のご機嫌を損ねないように気を遣いながらたくさんの知識人を保護したんですよね。かわいそうに,3人目の第二夫人であった福貴人(李玉琴)は,文革中ひどいつるし上げにあったようです。
(1987年中国・香港/監督:リー・ハンシャン/出演:レオン・カーファイ,潘虹/2000.10.20video)
続・西太后〜暴虐の美貌(西太后)
西太后が一度手に入れた権力の座を守り続けるために行った数々の横暴・残虐な行為を綴る。年代的には,1864年に太平天国の乱が終焉してから1881年に東太后が亡くなるまで。(西太后29才から46才くらいまで)
ストーリーが紫禁城の城壁の中だけで展開されるため,映画のスケール的には前作よりかなり劣る。
西太后は自分の地位を脅かそうとする者を容赦なく抹殺していく。その最大の標的になったのが,同治帝の子を身ごもった皇后である。皇后は西太后から徹底的に嫌われ,7ケ月の身重の腹を足蹴りにされたり,天橋の花街へ遊びに行ったのが原因で性病になった同治帝が18才の若さで早死にした後,前途に悲観し自殺しようとしたところを見つかり,西太后の命により身重の体を海老反りにされたまま舞台の上までつり上げられ腹から地面に落とされるという残虐な行為を受ける。
この映画は東太后が死亡(毒殺という説もある)し,西太后は,もはや誰も恐れる者がいなくなったということを暗示したところで終わっているが,これより後の西太后の残虐ぶりを知りたければ,『清朝最後の宦官 李蓮英』を観ればいいでしょう。
それから,この映画には,同治帝の召使い役でコンリーが出ています。同治帝に愛されたが故に,西太后に引き離され最後は遊女にされてしまいます。いじらしい召使いの役よりも遊女に落ちぶれたものの「タダ乗り」の客を罵倒するふてぶてしい役の方がコンリーらしいと思いました。
(1989年香港・中国/監督:リー・ハンシャン/俳優:劉暁慶,コンリー/2000.7.28renewal)