18中国関連映画(香港)


1911
ジャッキー・チェンの映画出演100本目で,中華民国建国のきっかけとなった1911年の辛亥革命から100年を記念して製作された歴史大作,という触れ込みである。
NHKドラマ『蒼穹の昴』や映画『ラストエンペラー』,『西太后』などで日本人が慣れている宮廷側から見たものではなく,革命側から見た中国近現代史である。
ジャッキー・チェンが演じる革命軍司令官の黄興は,武装蜂起を前に政府から指名手配され国外に逃亡した孫文に代わり,革命の指揮をとる。だから,辛亥革命を描くといっても,黄興と,彼と共に革命に身をささげ,散っていった若者たちが主に描かれ,戦闘シーンばかりが目立つ。
袁世凱を悪役として描くか,英雄として描くか,歴史の転換に必要な駒だったとして描くか,映画や小説でもいろいろ分かれるところだが,この映画では,一般に多く見られる,悪役ではあるが必要な存在だったたというような描き方である。
ジョアン・チェンが「ラストエンペラー」の時と同じ東太后役で出ています。映画「梅蘭芳」で青年期の梅蘭芳を演じ,NHKテレビ「蒼穹の昴」で李春雲(春児)を演じたユイ・シャオチン(余少群)が王兆銘の役で出ています。
(2011年中国・香港合作/監督:チャン・リー/出演:ジャッキー・チェン,ジョアン・チェン,ユイ・シャオチン/2011.11.7広島バルト11))
上海の休日(上海假期)
上海の共同住宅で寂しい一人暮らしをする少しお茶目な老人・グー(顧大徳)が,アメリカに住む息子夫婦の子供・ミンをしばらく預かることになった。かわいい孫に会えるのを楽しみに空港まで迎えに行った祖父は,すっかりアメリカナイズされた孫を見てビックリ。ガムを噛みながらスケート・ボードを抱え,おまけに英語しかしゃべらない。一方,アメリカ育ちのミンにしてみれば,プライバシーのない共同住宅での生活に嫌気が差し,学校でもアメリカ的個人主義と中国の伝統的な思考様式とのギャップにとまどい苛立って,級友や先生との関係もうまくいかない。最初は孫の喜ぶまま,ご機嫌をとっていた祖父も,だんだんどうしていいかわからなくなる。そして,孫がアメリカの両親に電話で,自分のことは棚に上げて上海の悪口ばかり報告するのを聞くに至りついに堪忍袋の緒が切れ,ミンをぶってしまう。発作的に家出したミンは列車に乗り込み,たどり着いた町(蘇州近辺かな?)で川に落ちて溺れかかっていたところを,村人に助けられ,親切な人の家に一晩泊めてもらい,そこで温かい家族愛に触れて回心し,上海に戻る・・・
離れていた孫と祖父が一緒に暮らすことになり,カルチャーギャップから最初はなかなか打ち解けられなかったが,次第にお互いを理解し合っていくというテーマの映画は,過去にもいくつか観た気がする。
祖父の家を飛び出したミンが上海へ戻る気になったところが十分描けていないようだ。心温かい村人の家に一晩泊まっただけで,そんなにすぐ回心できるだろうか?(ぼくはこの映画のあらすじを読んだとき,何日か村にとどまり,次第に心を開いていったのだろうと思っていた。)
感動するシーンを探しながら映画を見ていたら,ついにそういうシーンに出会わないまま映画が終ってしまった。祖父と孫が心を打ち解けあった時の感動は,孫周監督の『心の香り』に遠く及ばない。アン・ホイ監督が撮りたかったのは,祖国・中国(上海の街)の景色そのものであり,ストーリーは,さほど重要視しなかったのではないだろうかという気さえする。
中国人の父と日本人の母との間に生まれ,香港に移り住んだアン・ホイ監督は,「祖国(中国)」というものに特別な感情を持っているんじゃないかという気がします。映画の終わりの方で,ミンがアメリカに呼び戻されることになったとき,祖父がミンを諭すシーンがある。「いくら自由の国アメリカでも自分の祖父は選べない。だから,自分の故郷や家族は精一杯愛さなければならない」と。まるで監督が自分自身に語りかけているかのように・・・
この映画が監督の父方の祖国・アメリカと中国のギャップを描いたものだとすれば,母方の祖国・日本に対する思いを描いた『客途秋恨』も併せて観れば,また違う感じ方をするのかもしれない。
(1991年台湾・香港合作/監督:アン・ホイ(許鞍華)/出演:午馬,黄坤玄,カリーナ・ラウ/2001.2.8video)
上海ブルース(上海之夜)[広東語]
日本と中国が全面戦争に突入した1937年の上海・フランス租界。ナイトクラブで道化師をしていたドレミは,日本軍の空襲から逃れる途中で出会った女・シュウと一緒に橋の下に避難する。そこで意気投合した二人は暗闇の中でお互いの顔もはっきりわからないまま終戦後に再会することを約束して別れる。
そして,10年後,ドレミとシュウは同じアパートの上下の階に偶然住むことになるが,お互いそれに気付かない。ある停電の夜,アパートのベランダでふとしたことから身の上話を始めたシュウとドレミは,その時初めてお互いが探し求めていた相手だったということがわかる。
しかし,シュウは,自分の部屋に居候している田舎から出てきた娘(サリー・イップ)がドレミに惚れていることを知っていたので,自分は身を引くことを決心し,香港行きの夜行列車に乗る。その日は,ドレミが作曲した「上海ブルース」(実はシュウのために作った歌だった)がラジオで初めて放送される記念すべき夜だった。バックに上海ブルースの曲が流れる中,彼はシュウを追いかけて駅に急ぎ,動き始めた汽車に飛び乗る・・・
映画の冒頭のシーンを見て,中国版『君の名は』かなと思ったが,そこはどっこい香港映画,悲劇は似合わない。戦後の混乱期で物価が日増しに上昇し,人々は職探しにも苦労している,そんな時代をたくましく生きる男女3人とその恋愛模様をテンポよく描くラブコメディだ。サリー・イップのコミカルな演技もさえ渡る,『北京オペラブルース』と並ぶツイ・ハークの代表作。
(1984年香港/監督:ツイ・ハーク(徐克)/俳優:サリー・イップ/2001.6.18video)
新少林寺
20世紀初頭,辛亥革命後,各地で権力争いが絶えない頃の中国。
傲慢な将軍・候杰(こうけつ)は,部下である曹蛮(そうばん)の裏切りにより,追われる身となり,少林寺にかくまわれる。候杰は,少林寺でジャッキー・チェン扮する料理人のおかげで改心して出家し,少林寺の僧たちとともに,民衆を守る戦いに身を投じる・・・
ジェット・リーが主演した1982年製作の『少林寺』は,カンフーアクション主体であったが,『新少林寺』は,精神面,特に人間の成長を描いている。時代背景も隋朝末期から近代へと変わり,ジャッキー・チェン映画出演99作目となる本作よりも先に公開された100作目の『1911』同様,大砲の音がやかましい。
(2011年中国・香港合作/監督: ベニー・チャン/出演:アンディ・ラウ,ニコラス・ツェー,ファン・ビンビン,ジャッキー・チェン/2011.11.30広島バルト11))
宋家の三姉妹(宋家皇朝)[中国語]
「昔,中国に三人の姉妹がいた。ひとりは金を愛し,ひとりは権力を愛し,ひとりは中国を愛した・・・」清朝末期,上海の財閥・チャーリー宋(宋耀如)の家に生まれた三人の姉妹は,やがて中国の指導者の妻となる。彼女たちは,夫の片腕となり,或いは夫の遺志を受け継ぐ者として激動の中国の20世紀を生き抜いていく。孔祥熙(こうしょうき)夫人となる長女・宋靄齢(アイレイ),孫文夫人となる次女・宋慶齢(ケイレイ),蒋介石夫人となる三女・宋美齢(ビレイ),彼女たちはそれぞれ異なった新中国を思い描いていた。
「新しい女性の力で新しい中国を創る」という父の考えにより,三姉妹は小さい頃からアメリカで教育を受け,古い因習にとらわれることなく,それぞれが自らの手で自分が正しいと思う道を切り開いていく。それは孫文の死後,革命の主導権を握る抗争が激化する中で特に顕著になる。孔祥熙と結婚し,宋家と孔家の二つの財閥を結びつけた靄齢は蒋介石こそが一族の将来を託すに足りる英雄だと考え,蒋介石と美齢の仲を取り持った。靄齢の狙いは宋家,孔家,蒋家を一つに団結させ,中国最強の一族を作り上げることだった。蒋介石と美齢の結婚により完成したこの「宋王朝」に真っ向から対立したのが慶齢である。
慶齢は親子ほども歳の違う孫文と結婚したが,それは教師であり,革命の同志であり,思想上のリーダーでもあった人物に対する崇拝といったもので,彼女は夫の死後も,「孫文夫人」という名前の重みに耐え苦しみ,夫の目指した革命が貫徹されるまで,その義務感から解放されることはなかった。そして,夫の遺志と異なり反共政策を進める蒋介石と終生敵対する。
この映画が公開されるより前,1994年にNHKで『宋姉妹』というドキュメンタリー番組が放映された。三姉妹のアメリカ留学時代から「宋王朝」の誕生,三姉妹の訣別を経て「宋王朝」が終焉するまでを,貴重な歴史フィルムに宋姉妹の従兄弟やその他生き残っている当時の関係者へのインタビューを交えて構成した前後編併せて2時間半のさすがNHKと言わせる内容の番組だった。
それと比べてみると,女性監督メイベル・チャンは三姉妹の生きた時代を史実に沿って淡々と描くのではなく,激動の時代にリーダーシップを発揮した三姉妹のそれぞれの愛とやがて訪れる姉妹間の訣別をテーマにドラマ性豊かな作品に仕上げている。このため,映画では人物や場所の設定とか事件の発生順序を事実と変えている箇所がいくつかあったが,ドラマチックなストーリーに引き込まれるとそれもあまり気にならなくなる。三姉妹を演じる香港の女優陣も豪華である。靄齢をミシェル・ヨー,慶齢をマギー・チャン,美齢をビビアン・ウーが演じている。この配役であれば香港映画ファンはたまらないだろう。
映画の前半は宋家の家族愛を中心に割とゆっくり描いている。そこでは三姉妹の父親役を演じた姜文の味のある渋い演技が光っている。孫文よりも存在感があるな。孫文との結婚を父に反対された慶齢が,屋敷の二階から庭に飛び降り走って逃げるシーンもよく考えている。追いかけようとする老婆たちは纏足(てんそく)をしていたため早く走れない。「古い中国」を振り切ってダイナミックに走る慶齢の姿に「新しい中国」の息吹を感じさせる。
映画の最後は少し端折り過ぎだと思う。西安事変で夫と中国の危機を救い国際的な名声を得た宋美齢の,その後のファーストレデイーとしての特に外交における華々しい活躍なども取り入れてほしかった。これでは宋慶齢のみが目立ちすぎという気がする。
(1997年香港・日本合作/監督:メイベル・チャン/出演:マギー・チャン,ミシェル・ヨー,ビビアン・ウー,姜文,牛振華/映画館,2001.3.10renewal)
ドラゴンヒート(竜火)[日本語]
香港から来た中国人の男の子(愛称トモちゃん)と,日本人の田舎から出てきた女の子が東京で友達になり,「天安門の前で写真が撮りたい」という女の子の夢をかなえるため,一緒に香港経由で北京を目指すというストーリー。
いや,これは映画を見たあとで,話の筋をまとめたらそうなるということで,実際の映画を見る段では,そんなストーリー展開などどうでもよい。
そもそも,これが映画といえるのかどうか?画面を伸ばしたり縮めたり,カラーにしたり白黒にしたり,チカチカとフラッシュさせたり,映像と関係なく女の子の同じセリフを何回も繰り返したり・・・
良く言えば,実験的映像への挑戦。悪く言えば,監督の一人相撲的悪趣味の産物。
ストーリー重視派の僕としては,途中で見るのが耐えがたくなった。しかし,中国関連映画として載せるからには,最後の天安門の場面を確認せねばと思い,がまんしてたが,ラストも特になんてことはない。別に,行き着く先は天安門である必要もなかったみたいだな。
(1999年香港/監督:エリック・コット/俳優:エリック・コット,THE ME/2003.5.31video)
ドリアンドリアン(榴蓮飄飄)[広東語]+[中国語]
中国東北地方・黒龍江省の牡丹江(ぼたんこう)から香港にやってきたイェンは,就業ビザが切れるまでの短期間に,娼婦として稼げるだけ稼ごうと,歓楽街ポートランド・ストリートで忙しい毎日を送っている。
大金を稼いだ後,故郷へ戻ったイェンは,両親や友人たちから,都会での成功者として羨望の眼で見られる。しかし,彼らはイェンが都会で何をして金を稼いだかは知らない・・・
さて,大金を元手に何か商売をしようと思っていたイェンだが,毎日,何も考えず,金を稼ぐことばかりに熱中していたエネルギッシュな街・香港から,冬の間,雪と氷に閉ざされている荒涼とした北方の故郷にいざ帰ってみると,果たして何をしていいのか,又自分が何のために金を稼いだのかがわからなくなり,思い悩む日々が続きます。この街からはイェンのまねをして都会で一旗上げようと,別の若者たちが次々と南方に向かって行き,それを見送るイェンは一層複雑な思いがするのです・・・
前半(南の香港)と後半(北の牡丹江)での“動”と“静”の対比がいいですね。広東語のせわしさが,落ち着いた中国語(普通話)に切り替わるというのも故郷に帰ったという気がしていいです。
悩んでいる彼女の元へ,香港で知り合った少女・ファンから南方の果物「ドリアン」が届きます。イェンは,路地裏で皿洗いをしていたファンと,イェンのボディーガードがドリアンで頭を殴られた時に知り合ったのですが,シンセンから父の住む香港への不法滞在を繰り返していたファンはどうやら強制送還されたみたいです。
イェンは自分が帰郷する前に,実家の住所を,ファンに広東語でなく普通話で教えていましたね。「ムーダン ヂィアン(牡丹江)」と。実は映画の予告編でこのシーンを見て,耳に残った中国語の響きが心地よくて,香港映画ではあるけれど,この映画が見たくなったのです。
ドリアン(榴蓮)は南方の果物で,外側の殻はイボイボで固く,強烈な臭いがするそうです。でも,中身は甘く,たくさん食べるとお腹を壊すとか・・・フルーツ・チャン監督は,香港の路地裏の匂いと,都会の甘い誘惑をドリアンにたとえているのでしょうか?イェンは,雪の降る故郷の寒い部屋の中で,ひとり,南方のドリアン(=香港)を食べながら,人生の結論を出す・・・
(2000年香港/監督:フルーツ・チャン(陳果)/俳優:秦海路(チン・ハイルー)/2002.9.12サロンシネマ)
南京の基督(南京的基督)[広東語]
1920年頃の中国・南京。日本の新聞社から特派員として派遣された作家・岡川とキリスト教を信仰しているが生活苦のため娼婦をする金花の悲恋物語。映像が詩的で美しく,特に風景描写がもの悲しいトーンでまとめられ,映画の冒頭から破滅的なストーリーを予感させる。
原作は芥川龍之介の同名の短編小説だが,これに作家の苦悩と自殺というテーマも織り込んでいる。(それは芥川の死後に発表された「歯車」からそのエッセンスを取っている。)
日本人作家をレオン・カーファイが演じ,中国人娼婦を富田靖子が演じる。この逆転というか異色のキャスティングは成功している。特に富田靖子がいい。芥川の分身であろう日本人作家を演じるレオン・カーファイを完全に圧倒している。まだ幼さの残る中国人娼婦を演じる彼女は映画の中を走り回り,笑い転げ,はしゃぎ回っています。富田靖子っていったい何歳だったっけ?この,あどけなくて純粋無垢な少女の役をみごとに演じきっています。まさに適役って感じですね。さらに惜しげもなく裸体を見せる脱っぷりのよさにも感心。(これは少し違うか?)でも彼女のヌード,いやらしさがなくて本当にきれいです。
芥川の原作は金花の夢を破ることが反って金花を不幸にするという思いから,金花にはキリストに似た男の真実を知らせずに終わっているが,映画では金花の夢を岡川が壊し,そのことで金花ばかりか岡川自身も苦悩し,最後に二人はそれぞれ悲劇的な結末を迎えることになる・・・
日本に妻子がいた岡川は,結局は女遊びをしていたことになるのに,そんな日本人作家(=芥川)を少し美化しすぎか?この映画はやはり金花の愛と信仰に対する純真さを描くだけでよかったという気もする。
(1995年香港・日本合作/監督:トニー・オウ/出演:レオン・カーファイ,富田靖子/2001.3.28video)
華の愛(遊園驚夢)[中国語]
主人公の歌姫ジェイド(翠花)を演じる宮沢りえが2001年のモスクワ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した香港映画。
1930年頃の中国南部の水郷地帯の,とある大きな名家のお屋敷が舞台。恐らく蘇州辺りと思うが,映画の中には地名も年代もはっきりとは出てこない。そのお屋敷では,折りしも御主人の誕生日の祝宴が盛大に行われていた。美しい歌声と美貌により,大金と引き換えに(遊郭から?)御主人の第5夫人として迎えられたジェイドも祝宴に花を添えるため,その美しい歌声を披露していた・・・
庭も広く豪華な造りの屋敷の中での暮らしは贅沢で何不自由ないように見えるが,それは実は「カゴの鳥」同然の生活であり,ジェイドは毎日,孤独で満たされない日々を送っていた。そんな彼女の心のよりどころになるのが,主人の従姉妹ラン(ジョイ・ウォンが演じるところの男装の麗人)だった。女学校で新時代に生きる女性たちの教師をしているランと,滅びゆく古き良き時代の象徴のジェイド。映画はこの二人の生き方を対比させながら,二人の間の恋愛に似た感情をも官能的に描いている。
昆劇「牡丹亭」の名曲に乗せて色彩もあでやかに,華麗な美しい映像で,しかもゆったりと映画は進む。このため,歌のシーンや宴会のシーンなど,見ていて少し長く感じてダルい気もした。
優雅で退廃的な滅び行く古い時代を象徴する蘇州美人に 楊凡監督は日本人の宮沢りえを起用した。彼女のしぐさのひとつひとつに監督の美意識が結実している気がする。ただ,ジェイドは美しい歌声で人々を魅了するという設定だが,宮沢りえの歌と台詞が全部吹き替えになっているのが日本人には違和感を覚えるだろう。
(2001年香港/監督:楊凡(ヨン・ファン)/出演:宮沢りえ,ジョイ・ウォン/2003.6.16video)
ハリウッド★ホンコン(香港有個荷里活)[広東語]
物語の舞台は,香港の下町・ダイホム村。もうじき,政府により取り壊しの憂き目にあう予定の,このバラック作りの貧民区の背後には,「プラザ・ハリウッド」と呼ばれるショッピング・センターとマンションの超高層複合ビル群がそびえ立っていた。
その「ハリウッド」に住む上海娘・トントン(東東)が,ダイホム村の,男ばかりの太った三人家族の焼き豚屋の,一番下の男の子と仲良しになり,そこに何度も出入りする内に,平穏だった村の住人たちの生活がかき乱されていく・・・
つまり,邦題の「ハリウッド」は,アメリカのハリウッドのことではなく,香港の「プラザ・ハリウッド」のことである。ただ,この上海娘がアメリカの「ハリウッド」に行きたくて金を稼いでいるという意味も少し持っているのだろう。
香港の監督が香港を舞台にして作った広東語の映画なのに,なぜこの映画が中国関連映画なのか,それを説明するのは少し苦しい。実のところ,主演の周迅(チョウ・シュン)が中国人俳優で,上海娘の役を演じるというくらいことしか中国は関係してきません。しかも,周迅が映画の中で北京語をしゃべるのは一度きり。いつも焼き豚屋に出入りしているを,店の従業員(大陸出身)に北京語でたしなめられた時,
「あなた,どうして北京語がしゃべれるの?」と聞き返した,その一言だけでした。
フルーツ・チャン監督は,『ドリアン・ドリアン』でもそうだったが,香港社会と大陸出身者を絡ませる映画を作るのが好きなのだろうか。『ドリアン・・』は,主人公の若い女の子が香港で娼婦になって一稼ぎし,黒龍江省の故郷に帰って一旗上げるという内容(少し乱暴な要約かな)だったが,本作でも,主人公の上海娘が故郷ではないが,アメリカのハリウッドに行く金を稼ぐために娼婦(まがいのこと)をするといった内容だ。また,『ドリアン・・』では,主人公の女の子は路地裏で皿洗いをする少女と仲良くなり,本作では,上海娘は焼き豚屋の子豚みたいでかわいい男の子と仲良くなる。
映画の前半を見て,これは,夢を追う上海娘と子ブタ少年の心の交流に焦点を当てたコメディタッチの映画だと思っていた。後半になって,上海娘の意外な素顔が明らかになるが,周迅演じる上海娘が悪役に思えてこないのはなぜだろう。下町のリアルな生活を描いている途中に,猟奇的なシーンや理屈で考えるとおかしいシーンも出てくるが,それも寓話のような気がして,さしたる違和感を感じない不思議な映画です。
(2001年フランス・香港・日本/監督:フルーツ・チャン(陳果)/出演:周迅/2004.2.21DVD)
北京オペラブルース(刀馬旦)[広東語]
1913年,辛亥革命直後の軍閥が割拠する混乱の街・北京が舞台。袁世凱大総統を失脚させ中国に民主化をもたらすために,現将軍の家から機密文書を盗み出そうとする革命ゲリラに協力することになった三人娘の活躍を描いたロマンチック&サスペンス作品。
三人娘を演じる香港の女優がそれぞれ魅力的である。現将軍の娘でありながら革命家に協力する「男装の麗人」をブリジット・リンが,逃亡した前将軍のところで楽器を弾いていたお金だけが大切だと思っている娘をチェリー・チェンが,女形しか舞台に上がれないことに不満を持つ京劇団の座長の娘をサリー・イップが演じる。男装のブリジット・リンはとても凛々しくてカッコいい,他の二人はかわいくておてんばでコミカルだが,どちらかといえばチェリー・チェンは少し軽い感じでサリー・イップは考え方が少し古風な感じだ。アクションシーンが多い中で,三人娘がある夜更けにナイトウェアを着て地球儀を囲みそれぞれの想いを語りながら酒を酌み交わすシーンが心和む。
原題の中の「旦」とは京劇の4つの役柄のうちのひとつ「女役」を意味する。「刀馬旦」とは武術や立ち回りを主にする女形のことだそうだ。それからもわかるようにこの映画は女性が主人公であり,かつドラマの展開上,京劇の劇場が重要な舞台となっている。ラストで,京劇の役者に変装した三人娘と二人の革命家が舞台で劇を演じながら,観客席で監視している秘密警察から逃げるため,五人がそれぞれ天井の梁に青い布を投げ掛けて舞台から二階の観客席に飛ぶシーンは圧巻。
この映画,舞台設定が北京というだけで,やはり香港映画だな。京劇そして革命といった中国の伝統的な或いは厳粛なテーマをこれほど軽やかに,かつロマンチックに描くことは中国映画ではできないだろう。三人娘の胸のすくアクションに満足満足。それから,京劇団の座長を演じたのは『上海の休日』のおじいさん,午馬でしたね。困ったときの顔の表情が『上海・・』のときと同じでした。
(1986年香港/監督:ツイ・ハーク(徐克)/出演:ブリジット・リン,チェリー・チェン,サリー・イップ,午馬/2001.4.4video)
冒険王
1920〜30年頃の中国を舞台に,未来が映しだされ,手にした者は世界を支配するといわれる「真経」と,それへの鍵となる「経箱」を手に入れるために繰り広げる冒険活劇。
"冒険王"と呼ばれる考古学者のワイ博士を演じるリー・リンチェイ(ジェット・リー)のアクションと博士の弟子・パオを演じる金城武の三枚目役が見もの。悪役側は,和服の似合う美しき女性(博士が一目惚れをしてしまうのだが)を頭とする日本軍のスパイで,忍者や相撲取りも出てきたりする。毒ガスでの人体実験をギャグ調に挿入したりすることができるのも香港映画ならでは・・・か。
香港版「インディ・ジョーンズ」というふれこみだが,本物と比べたらスケールの違いを感ぜざるを得ない。香港映画独特のテンポで進むコメディタッチの展開であるため,スリルとサスペンスには欠ける(謎解きもないしね)。「インディ・ジョーンズ」の小型版・香港風アクション風味というところか。
(1996年香港/監督:程小東/出演:ジェット・リー,金城武/2001.8.14video)
夜半歌聲(夜半歌聲)[中国語]
1936年の北京。廃墟さながらの古びた劇場に貧乏劇団が移り住んできた。劇団員の一人,ウェイチン(韋青)は,そこで不思議な歌声を聴き,きれいな女性が走って行く幻想を見る。その劇場には,悲しい恋人たちの秘密が隠されていたのだ。
10年前,その劇場で『ロミオとジュリエット』を演じ,人気を博していた名優ソン・タンピン(宋丹平)と,財閥ドゥ(杜)家の一人娘・ユンエン(雲嫣)は愛し合っている仲だった。だが,ユンエンの両親は,2人の仲を許そうとせず,ユンエンをツァオ家の息子に嫁がせることを決めてしまう。
ユンエンとタンピンの仲を裂くため,ツァオ家の手下がタンピンの劇場を襲撃し,タンピンの顔に硫酸を投げつけ,劇場には火が放たれた。絶望したユンエンはツァオ家に嫁ぐが,処女ではなかったので離縁される。ドゥ家は北京を去り,ひとり残されたユンエンは発狂してしまうが,焼け死んだとされるタンピンの歌を聴くために,満月のたびに劇場に現れる・・・
ミステリー映画かと思っていたら,違ってました。タンピンとユンエンの強い愛の力が主題みたいです。タンピンを演じるレスリー・チャンのミュージカル映画的側面もあり,女性ファンならきっと堪能するのでしょう。終わり方もハッピーエンドというか勧善懲悪で,さすが香港映画,お客様サービス満点です。
香港映画なのに,会話は,北京語でしたね。キーワードは,やはり『一輩子(イーペイズ)』(一生)でしょう。何度出てきたでしょうか。劇場の天井で,ユンエンが「丹平,ni会永遠愛我ma?(ずっと愛してくれる?)」と聞いたとき,タンピンの返事は「一輩子(一生愛するよ)」。字幕では,「誓うよ」でした。ラストの辺り,タンピンがユンエンを見舞いに行った病院の中での会話においても,タンピンが「これからは,ずっと一緒だ」という意味で,「一輩子」と言ってました。そうそう,レスリー・チャンが歌う歌の中にも出てきましたね。
そのほか,『山の郵便配達』と同じく,白紙の手紙を読むシーンが出てきました。感動の度合いは『山の・・・』の方が大きかったですね。ウェイチンを演じていたのは,『人生は琴の弦のように』の黄磊(ホアン・レイ)でした。4〜5年しか経っていないはずなのに随分変わってて,最初,気が付きませんでした。
(1995年香港/監督:ロニー・ユー/出演:レスリー・チャン,黄磊/2004.8.12DVD)
ロアン・リンユィ 阮玲玉(阮玲玉)
1930年代前半の上海映画界(サイレントの時代)におけるトップ女優であった阮玲玉(ロアン・リンユィ)が,1935年,その絶頂期に25才の若さで睡眠薬を飲んで自殺した事件を,死の直前6年間を中心に検証した伝記的ドラマ。彼女は,死して伝説となった・・・
映画の構成が少し変わっていて,ある程度予備知識がないと理解しづらいと思う。基調は,マギー・チャンが演じる阮玲玉の最後の6年間を再現したドラマだ。これに,現存する阮玲玉の出演した映画フィルムとスチール写真からの断片;マギー・チャンが再現する阮玲玉の主演した映画のハイライトシーン;当時の阮玲玉を知っている人々へのインタビュー;この映画に出演する俳優やスタッフによる討議・コメントなどを多層的に重ね合わせながらストーリーを展開している。
阮玲玉は,16才で映画界に入り,1930年『故郷春夢』で主役になってから,その美貌と演技力で,憂いを含んだ退廃的な女性から知的で進歩的な女性までを演じ社会派女優の人気スターになっていく。
幼くして父をなくした阮玲玉の私生活は苦労の連続だった。最初,女中をする母親と一緒に住み込んでいた張家の息子・張達民(チャン・ダーミン)に見初められるが,その後,張が没落し阮玲玉のヒモに成り下がると,別居に踏み切り,張と手を切るための金を出した唐季珊(タン・チーシャン)と同棲を始める。(唐には妻がいたので結婚はできなかった。)
手を切ったはずの張達民に,後に不義密通で告訴され,新聞でゴシップ記事を書きたてられたことが自殺の主な動機とされている。1935年に彼女が主演した映画『新女性』が新聞記者を批判した内容であったので,マスコミがこの映画に主演した阮玲玉への個人攻撃をする目的で,このスキャンダルに飛びついたわけだ。『新女性』は,新聞にあらぬことを書き立てられ自殺した女優アイシャを追悼して作られたものだが,スキャンダルに悩んだ阮玲玉は,裁判公判の前日に,あたかも『新女性』の悲劇のヒロインの死をなぞるかのように服毒自殺する。
映画を観ていてたびたび錯覚を起こした。マギー・チャンの演じる阮玲玉が映画のハイライトシーンを撮影している場面のすぐ後に,オリジナルの映画の同じシーンが映し出される。そうしていると今度はマギー・チャンが阮玲玉の私生活を演じる場面が登場したり,今現在のマギー・チャンが登場しコメントを述べたりする。さっき,登場した阮玲玉は,マギー・チャンが演じていたのではなくて,実は阮玲玉本人だったような気がしてくるのだ。監督がそう思わすように映画を作ったのだろうか?不思議な映画だ
『新女性』を撮った蔡楚生(ツァイ・チューション)監督の役でレオン・カーファイが,阮玲玉と仲の良かった女優リ・リリー役でカリーナ・ラウが出演しています。
(1991年香港/監督:スタンリー・クワン(關錦鵬)/出演:マギー・チャン,レオン・カーファイ,カリーナ・ラウ/2001.2.15video)